上肢のしびれ

しびれは通常,感覚障害に伴う自覚症状として,たとえば手がしびれる,足先がしびれる,などとして訴えられます。より具体的には,「歩くと,砂利の上を歩いている感じ」「皮が一枚はってあるような感じ」など,様々に表現されます。感覚障害の訴えとしてのしびれは,末梢から中枢に至る知覚経路のいずれかに障害があるときに生じます。ここでは代表的な疾患に関して記載したいと思います。

上肢のしびれ

頚椎病変

頚椎症

手指のしびれは頚椎症では最も一般的な症状であり,これを主訴に来院することが最も多いです。しびれを訴える手指に障害髄節高位の特徴が存在すれば,責任病変の決定に有用な指標となりえます。
末梢神経は皮膚の固有支配領域が存在し,単一末梢神経障害でも固有感覚領域に特有の感覚低下ないし脱失領域が認められます。しかし,脊髄による皮膚の感覚支配領域は,隣接する各髄節の支配領域が屋根瓦状に重複支配しているため,根障害を含め単一髄節障害では感覚脱失は起こり難いと考えられています。しびれは診断学的にはきわめて有用な情報となりえます。しかし,しびれはきわめて自覚的な症状でしびれを他覚的に証明することは必ずしも容易ではないです。とくに「何もしなくてもジンジン・ビリビリする」と表現される自発的な「異常感覚dysesthesia」を他覚的に捉えることは困難です。一方「錯感覚paresthesia」はある程度他覚的に捉えることができます。前者は支配髄節全体に広がることが多いですが,後者は指尖部のみに認められることが多いです。

病態

頚椎症とは,頚椎の椎間板,椎間関節などの加齢変化が原因で,骨棘の形成黄色靭帯の肥厚椎間板膨隆などが起こり,脊柱管や椎間孔の狭窄を来して症状が発現したものであり,頚椎症性脊髄症と頚椎症性神経根症に大別されます。
頚椎症性脊髄症は頚椎症により脊髄症状が発現した状態であり,四肢のしびれ痛み,上肢の巧緻障害(箸の使用困難,ボタン掛け困難書字困難),歩行障害(痙性歩行)などが生じる病態です(図1)。具体的には上肢症状として「お箸が使いにくい」「新聞がめくりにくい」「ボタンが掛けづらい」などの症状が、その後に下肢にも感覚・運動障害が広がって、「よくつまずく」「階段を下りるのがこわい」といった訴えが出現します。
頚椎症性神経根症は頚椎症により神経根症状の発現した状態であり,頸部,肩甲部,上肢にかけて,主に一側性の痛みやしびれ,筋力低下が生じる病態です(図1)。運動神経に限局して障害を生じると、「急に肩 が上がらなくなった」「指が伸ばせなくなった」といった症状が出現する場合もあります。

高齢者は糖尿病や脳梗塞など合併症のために診断が遅れ,適切な治療が行われないことがあり,罹病期間が長いとする報告も散見されます。
また,高齢者で脊柱管の狭窄が生じていると軽微な転倒を契機に非骨傷性脊髄損傷を発症する場合もあり,臨床的,社会的に大きな問題となることがあります。症状が軽くても脊柱管狭窄が高度である場合は転倒のリスクが高く,本人はもちろん家族ともに日常生活から留意しておくことが重要です。

治療

頚椎症性脊髄症に対する治療として,投薬・リハビリなどの保存療法を行います。進行性もしくは長く持続する脊髄症,軽度でも保存療法で効果がなく脊髄圧迫の強い症例が手術適応となります。
頚椎症性神経根症は保存療法(投薬,牽引,ブロックなど)で自覚症状の軽快をみる例が多く,悪化例は少ないとされています。しかし,保存療法に抵抗して疼痛や運動麻痺の持続もしくは悪化がみられる場合は手術適応となります。

頚椎椎間板ヘルニア

頚椎椎間板ヘルニアは,腰椎と異なり変性の少ない椎間板での発生は通常みられないです。頚椎の椎間板変性は,20歳代で始まり,腰椎の椎間板ヘルニアが10~20歳代でよくみられるのに対して中高年齢層に生ずることが多いです。
一般に,頚椎椎間板ヘルニアが及ぼす症状としては,神経根症と脊髄症があります。

神経根症

初発症状は,ほとんどが片側性頚部痛で,部位は項部,肩甲上部,肩甲骨上角部,肩甲間部,肩甲骨部のいずれかになります。「くびあるいは肩甲骨のあたりが痛む」ことが多いです。その後,上肢痛,手指のしびれが遅れて生じます。もし,頚部痛がしびれより先に生じていなければ本症をほぼ除外でき,絞約性末梢神経障害を疑うべきです。骨棘による頸椎症性神経根症と比べて急性発症で,症状が激烈なことが多いです。頚椎を後ろに反らせて頭上から圧迫する Jackson テストや、斜め後ろに反らせて圧迫を加える Spurling テスト (図 3)などで、患部に痛みが誘発されると神経根症の可能性が高くなります。

スパーリングテスト 頚椎を斜め後ろに反らせて圧迫を加える。

画像診断

中高年齢層に多いので,単純Ⅹ線検査ではLuschka関節の変形性変化,斜位像における椎間孔狭小化に注意し,頚椎症合併の有無をみます。
骨棘の描出にはCT検査が優れています。椎間板ヘルニアの診断は,MRIが最も優れており,ヘルニア脱出,脊髄変形の程度が明らかになり,脊髄の輝度変化に伴う質的診断も可能です。

治療

保存療法が原則です。70~80%の患者で良好な結果が得られ,筋力低下を合併するものでも3~4ヵ月の保存療法で筋力の回復が得られることが多いです。しかし,4ヵ月以降では症状の改善が少ないことから,4ヵ月以降でも疼痛,しびれが強く残存し,筋力低下があるものでは手術の適応があります。

脊髄症

椎間板膨隆により頚髄が圧迫され,脊髄障害をきたす.頚椎症性のものより急激に発症します。

症状

多くは手指のしびれで発症します。両側同時のこともあるが,左右いずれかに出て,まもなく両側性になります。神経根症と異なり,頚部痛での発症はほとんどないです。その他に手足のもつれ,四肢,体幹に放散する電撃性ショックなども初発症状としてみられます。上肢では手指の巧遅運動障害により衣服のボタンの止めはずし,書字,箸の使用などが困難になります。病変の拡大に伴い下肢では,足のひきずり,もつれといった歩行障害がみられ,走ることや,立ち上がって歩き始める動作,階段昇降が困難になります。また,足先あるいは下肢,体幹にしびれが生じ,さらに,排尿排便障害が出現することがあります。

画像診断

本症における最も有用な画像検査はMRIです。T1強調像矢状面では前方からのヘルニアよる圧迫の程度,T2矢状断では脊髄内の輝度変化を観察します。脊髄高輝度ならより重症で,T1低輝度,T2高輝度ならば脊髄変性に陥っている可能性が高く,予後不良です。

治療

知覚障害が主で,運動障害が軽微な例では頚椎ソフトカラー,牽引などの保存療法を行いますが,中等度以上の例には手術が勧められます。

参考文献


前野考史 岩崎幹季 Geriat. Med.53(12):1285~1288, 2015
三原久範 整形外科看護 2018 vol.23 no.1 (17)

胸郭出口症候群

上肢のしびれ感,脱力を伴う頚肩腕痛は,整形外科領域では腰痛と同様頻度の高い訴えであり,その原因としての胸郭出ロ症候群は頚椎病変と並んで代表的な疾患の一つです。胸郭出ロ症候群は,頸部C5~T1神経根が頸髄を出てから腋窩部で正中神経,尺骨神経,橈骨神経に分岐するまでのいわゆる腕神経叢部で起こる圧迫性神経・血管障害の総称であります。多くはなで肩の女性や,手を挙上しての作業が必要な職業についた男性に発症し,手のしびれ,肩痛,肩こり,頚部痛などが主訴になります。しかし,圧迫が常時ではなく,上肢の動きに伴い生じるため,安静時に行われる諸検査では異常所見を得ることが難しいのが特徴としてあげられます。このため診断に難渋することが多く,頚椎疾患や手根管症候群・肘部管症候群などの絞拒性神経障害と間違われて治療されることもしばしば認められます。治療は,まず肩周囲筋強化などのリハビリテーションや装具療法などの保存的治療が行われ,軽快しない例に手術が施行されます。治療後の最終予後は良好で,多くの例で疼痛やしびれが軽減し,元職に復帰されています。

参考文献


齊藤貴徳 総合臨床2006.9/Vol.55/No.9

末梢神経障害

手根管症候群

1)病態・原因

正中神経は、手関節部で屈筋支帯と手根骨に囲まれたトンネルを通過します(図 1)。この部位で生じる絞扼性神経障害を手根管症候群といいます。中年以降の女性に多く、時に両側性のことがあります。手を過度に使用したり、屈筋腱腱鞘炎やガングリオンなどで生じます。また透析によるアミロイド沈着、妊娠後の浮腫性変化、橈骨遠位端骨折の変形治癒などによっても起こることがあります。 

図1

2)症状 

母指・示指・中指のしびれが主症状です。同部位と環指橈側に知覚低下がみられることがあります。進行すると母指球筋の筋力が低下します。さらに悪化すると萎縮が生じ、つまみ動作ができず、perfect O sign(図2)が困難となります。

図2

3)診断 

正中神経支配領域の知覚異常、手関節部掌側のティネルTinel 徴候(手関節を叩くと母指~環指に痛みやしびれを生じる)が陽性、ファーレンPhalen テスト(手関節掌屈保持によって痛みやしびれが増悪する)が陽性で診断します。これに加えて、電気生理学的検査で正中神経の異常がみられ、診断確定となります。

4)治療

手関節の使いすぎに注意するなどの生活指導や、場合によってサポーター固定を勧めます。ビタミンB12や消炎鎮痛薬の薬物療法も行いますが、奏効しない場合は手根管内へのステロイド注射が行われます。

母指球筋の明らかな萎縮がある場合や保存治療が無効な場合は手根管開放術の適応となります。萎縮が高度で運動機能回復が見込めない場合は、腱移行術によるつまみ動作の再建を行う場合もあります。

肘部管症候群

1)病態・原因

肘関節内側にある肘部管を通る尺骨神経(図 3)が圧迫・牽引・摩擦などの障害を受けて発生する絞扼性末梢神経障害です。変形性肘関節症、肘部管内ガングリオン、外反肘変形、尺骨神経の亜脱臼などが原因となることがあります。

図3

2)症状

症状は肘関節内側の痛みと、尺骨神経が支配する環指・小指のしびれを訴えることが一般的です。とくに肘関節屈曲位で症状が増悪することが多く、症状が悪化すると骨間筋や小指球筋の筋力が低下して箸が持ちにくいなどの運動障害が出現します。

進行例ではこれらの筋で萎縮が生じ、環指と小指にかぎ爪指変形(図4)がみられます。

図4

3)診断

肘部管直上で叩打すると尺骨神経領域に痛みやしびれが放散するティネルTinel 徴候が陽性であり、小指と環指の尺側で知覚障害がみられると肘部管症候群の診断となります。また、母指と示指で紙をつまみ、検者が引き抜くと母指IP関節が屈曲してしまうフロマンFroment徴候がみられることがあります。

4)治療

初期では肘屈曲を制限する生活指導やサポーターの着用、ビタミンB12や消炎鎮痛薬の薬物療法が行われます。保存治療でも症状が改善されない場合は手術治療が適応され、病態によって除圧術、内上顆切除術、尺骨神経前方(皮下・筋層内・筋層下)移行術などが行われます。

Guyon管症候群

1)病態・症状

手関節の小指側で、手根骨の豆状骨と有鉤骨、豆鉤靭帯などが形成する尺骨神経の通り道であるギヨンGuyon 管(図5)での絞扼性神経障害です。尺骨神経はギヨンGuyon 管内で浅枝(感覚神経)と深枝(おもに運動神経)に分かれるため、運動障害のみ、感覚障害のみ、感覚・運動両方の障害といった多様な症状が出現します。肘部管症候群に比べて頻度は非常に低く、まれな病態です。このため肘部管症候群と誤診されることがあり、注意が必要です。

図5

2)診断

肘部管症候群と似た症状を呈しますが、感覚障害だけのことがあるのが特徴です。また、MRIや筋電図、末梢神経電気生理検査が有用です。

3)治療

初期では消炎鎮痛薬、ビタミンB12の内服が行われます。手関節部の安静やサポーター固定などの生活指導を行うこともあります。症状が改善しない場合は神経剥離術などが行われます。

参考文献


平井高志 整形外科看護 2019 vol.24 no.8 (763)

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