こどもの股関節痛

はじめに

小児股関節疾患としては発育性股関節形成不全が最も代表的で乳児健診で異常を指摘されて外来受診されることが多いです。小児期に股関節痛をきたす疾患としては単純性股関節炎,化膿性股関節炎,Perthes病,大腿骨頭すべり症が代表的です。単純性股関節炎以外は適切に治療がおこなわれないと将来的に重篤な後遺障害を残す可能性があるため,確実に診断する必要があります。
小児の股関節疾患では股関節周囲だけでなく大腿部や膝周囲の痛みを訴えることが多いです。また,疼痛が軽度の場合は股関節痛の訴えがなく跛行のみを訴えることもあります。膝関節を固定した状態で股関節を他動的に動かすことで疼痛が出現するようであれば股関節由来の疾痛と考えられます。化膿性股関節炎と大腿骨頭すべり症は緊急での治療開始が必要となります。ただし,化膿性股関節炎と単純性股関節炎との鑑別はX線写真や超音波検査のみでは鑑別が困難なことも多く,総合的に診断し,疑わしければ関節穿刺をする必要がある.

小児股関節疾患の特徴

発育性股関節形成不全

1)病態

以前は先天性股関節脱臼と称されていましたが,出生後に脱臼が生じてくる症例が存在すること,脱臼,亜脱臼,寛骨臼形成不全は連続的な疾患で境界が不明瞭なことから,まとめて発育性股関節形成不全と称するようになりました。女児に多く男児の約9倍の発生率で遺伝的要因,子宮内での胎児の異常位(妊娠後期まで骨盤位であった場合,頭位分娩の5~7倍のリスク),出生後の下肢伸展位の保持などが発生に関与します。

2)診断

股関節開排制限(股関節を90度屈曲して外転したときの床面と大腿骨軸との角度が30度未満)を認めることが多いです。大腿や単径部の皮膚溝の数や深さの非対称がみられ,とくに単径部の皮膚溝が深くなっていると脱臼している可能性が高いです。また,脱臼している場合は患側下肢が短縮するため,立膝をして両膝を比較すると患側の膝頭が低くなります(Allis徴候)。X線写真で大腿骨頭骨端核が出現していない場合は補助線を用いて判定します(図2)。超音波検査ではⅩ線写真で大腿骨頭骨端核が出現していない場合でも大腿骨頭と関節唇の位置関係が描出可能であり有用です。

3)治療

生後3ヵ月頃までは下肢の自動運動を妨げないような適切な育児法を指導します。生後3ヵ月頃からリーメンビューゲル装具による治療を開始するのが一般的です。寝返りをおこなうと整復が困難となるため生後6~7ヵ月までが良い適応です。整復率は80%前後ですが,5~15%に骨頭壊死の発症リスクがあり必ずしも安全な治療法ではないです。リーメンビューゲル装具で整復困難な場合や生後7ヵ月以降に診断された場合はoverhead traction法や開排位持続牽引整復法,さらには観血的整復により治療をおこないます。

化膿性股関節炎

1)病態

感染による股関節炎で起炎菌は黄色ブドウ球菌が最も頻度が高いですが,近年ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)などの多剤耐性菌による感染が増加しています。いずれの年齢でも発症の可能性がありますが,新生児や免疫機能が低下している児に多いです。乳幼児期の股関節では骨幹端が関節包内に存在するため,血行性に骨髄炎を生じると関節内に感染が波及し化膿性股関節炎に至ります。

2)診断

発熱,不機嫌食欲不振,全身倦怠感などがみられます。股関節痛のためオムツ交換時の蹄泣がみられたり,患肢を動かしたがらなかったり(仮性麻痺)します。関節液の貯留によりX線写真や超音波検査で関節裂隙の開大がみられますが,単純性股関節炎との鑑別は困難です。疑わしければ,迷わず関節穿刺をおこないます。化膿性股関節炎であれば関節液は混濁し膿性となります。

3)治療

保存療法の適応はなく発症後,可及的早期の外科的治療(48時間以内,可能であれば24時間以内)が必要です。起炎菌は黄色ブドウ球菌が多いため,第1・第2世代セフェム系抗菌薬を使用することが一般的ですが,免疫機能低下児ではMRSAも想定した薬剤を選択する必要があります。本症では治療が遅れると重篤な後遺障害が残る可能性が高く,また,早期に治療がおこなえても再発や後遺障害が残る可能性があり慎重な経過観察が必要です。

単純性股関節炎

1)病態

小児に一過性にみられる股関節滑膜炎です。原因は明らかになっていないです。好発年齢は4~10歳くらいで男児の発生率が女児にくらべて2~3倍多いです。

2)診断

急激な股関節痛をきたし跛行がみられ,時に歩行不能となる場合もあります。上気道感染が先行することがあり微熱がみられることがありますが,局所の腫脹・発赤・熱感は認めません。明確な診断基準はなく,他の疾患が除外できれば本症と診断されます。

3)治療

単純性股関節炎であれば,手術など特別な治療は不要です。通常は股関節の安静により数日から長くても2週間程度で症状は軽快します。症状が強い場合は入院し,介達牽引をおこなうと効果的です。数回の再発をくり返す場合もあり予防法はないですが,予後は良好です。

Perthes病

1)病態

骨成長完了前に発症する大腿骨近位骨幹端の阻血性疾患ですが,原因は明らかになっていないです。成人の大腿骨頭壊死症とは異なり,壊死部の血行再開により修復可能です。修復が完了するまで2~3年の長期を要します。小学校低学年ごろの男児に好発し(女児の約5倍),両側例が約10%あります。

2)診断

股関節痛を主訴とすることが多いですが,大腿部や膝周囲の痛みを訴えることも少なくなく疼痛は軽度なことが多いです。外転・内旋可動域制限がみられ,ほとんどの症例で跛行を認めます。初期にはX線写真での診断が困難なことがありますが,軟骨下骨骨折(crescent sign)の所見が診断に有用です。初診時に診断が困難な場合でも定期的に再診を継続することにより診断可能となります。

左Perthes病

 

3)治療

壊死範囲や圧潰の程度および発症年齢が治療法や予後に影響します。高年齢発症で壊死範囲が広範囲なほど予後不良です。治療の原則は壊死部の免荷とcontainment療法による骨頭のリモデリング促進です。containmentを得るためには装具治療と手術治療(大腿骨内反骨切り術やSalter骨盤骨切り術など)がありますが,外来での十分な装具治療は困難なため医療型入所児施設での入院加療が望ましいです。

大腿骨頭すべり症

1)病態

Growth spurtの時期に大腿骨近位骨端線にかかる剪断力で骨端が骨幹端に対し後内側に転位(骨幹端が骨端に対して前外側に転位)する疾患です。肥満や過度のスポーツ活動により大腿骨近位骨端線に過度の力学的負荷がかかって生じます。成長ホルモンや性ホルモンの異常との関連も指摘されていますが,明らかにされていないです。思春期の男子に多く(女子の約2.5倍),両側例が20~40%です。

2)診断

大腿部や膝周囲の痛みを訴えることが多く,長期に見逃されることも少なくないです。股関節を屈曲時に外転外旋位となるDrehmann徴候が特徴的です。X線写真の正面像のみでは診断が困難な場合もあり,2方向撮影が必須です(図③)。正確な側面像(Lauenstein像)により後方傾斜角を測定し,重症度を判定します。

3)治療

必ず手術が必要な疾患であり,可及的早期に入院のうえ治療を開始する必要があります。とくに不安定型では骨頭壊死の危険性が高く,緊急の対応が望ましいです。軽症例ではすべり位のままですべり部を安定化(in situ pinning)させます。重症例では一期的もしくは二期的に矯正骨切り術を併用し,関節適合性を改善させます。近年では軽症例であっても大腿骨寛骨臼インピンジメント(femoroacetabular impingement:FAI)のために関節症を発症する場合があり,注意が必要です。

参考文献

三宅由晃,三谷 茂 LOCO CURE voL5 no.3 2019
及川泰宏 小児内科 Vol. 51 No. 10,2019‒10

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