膝関節靭帯損傷

前十字靱帯(anterior cruciate ligament:ACL)損傷

1.はじめに

前十字靱帯(以下,ACL)損傷は本邦では年間約3~4万件の発生件数が報告されており,スポーツに伴い損傷することが多いです。特にバスケットボール,サッカー,ハンドボール,アメリカンフットボール,ラクロス,スキーなどで発生率が高いとされます。ACL損傷の発生頻度は男性より女性が1.5~7倍高く,女性のほうが損傷しやすいとされます。受傷機転としては非接触型と接触型の損傷があります。前者はターンや急停止動作,ジャンプからの着地動作時に膝がガクっとなり生じることが多いです。一方,後者はタックルや外傷などに伴う予期しない外力により,膝関節過伸展や下肢外反に伴う過度の下腿外旋などで膝を捻り生じます。受傷時には「ブチッ」というpop音とともに急な膝崩れ(giving way)を生じ,運動・競技継続が困難となることが多いです。そのため,詳細な問診により受傷機転を明らかにすることが正確な診断への1st stepとなります。

2.診断

徒手検査

a)Lachman(ラックマン)テスト(図1):

ACL損傷診断に最も感度の高い徒手検査です。患者を仰臥位とし十分に緊張を取ったうえで膝関節を屈曲位20~30°とします。一方の手で大腿遠位部を,もう一方の手で下腿近位部を把持して前方ヘストレスを加えます。前方へ移動させACLが緊張する際のend pointを徒手的に評価します。ACLが損傷されている場合は,このend pointが消失,またはsoftとなるため,評価には左右差を比較することが重要です。

図1

b)Pivot shift(ピボットシフト)テスト:

ACL損傷に対して最も特異度の高い徒手検査です。まず患者を仰臥位としリラックスさせ,一方の手で足関節を把持して下腿を内旋するとともに膝関節近位方向へ軸圧をかけます。もう一方の手で外反力を加えるとACL損傷膝の場合,脛骨が前方へ亜脱臼します。この状態で膝関節伸展位から屈曲させると,屈曲位30~40°で「ガクッ」という感じとともに弾発的に整復されます。正常と比較するため,左右差をチェックします。Pivot shiftテストの際に患者は不安感を訴えることが多く,十分に緊張を取ったうえで愛護的に徒手検査を行います。

画像診断

1)単純X線像

単純X線像にて有意な所見を認めない場合が多く,靱帯損傷を見落とす原因となるので注意を要します。明らかな所見を認めない場合でも病歴から靱帯損傷が疑われる場合は,常に靱帯損傷の可能性を念頭に注意深く診察を進める必要があります。下記所見を認める場合がある.

a)Segond(セゴン)骨折:脛骨外側辺縁に生じる縦方向の微細な剥離骨折です。膝関 節外側関節包の脛骨外側プラトー付着部に生じます。

2)MRI

近年,高解像度のMRIが開発され,ACL損傷に対しての診断の正確性が上がっています。ACL損傷のみならず合併する半月板や関節軟骨損傷などの診断にも有用で、また下記の特徴的な所見が認められることが多いです。

a)ACLの描出不良(図2a):正常膝関節ではACL線維が緊張した状態で存在していることが確認できるが,ACL損傷膝ではACL線維は膨化して描出不良となります。

b)後十字靱帯(PCL)の走向異常(図2b):ACL損傷膝ではACL不全のため脛骨が大腿骨に対し相対的に前方へ偏位することがあります。そのため,PCLが撓んで弓状に走向しているように認められます。特に陳旧例でこのような所見が認められることが多いです。

c)骨挫傷(bone bruise)(図2c):受傷時に大腿骨外側穎中央付近と脛骨高原外側後縁が衝突し,生じます。Tl強調像で低信号,T2強調像で高信号領域が認められます。

図2

 

3.治療方針

ACL損傷膝に対する治療方針は膝関節安定性の再獲得です。そのため早期にACL再建術を考慮することが望ましいですが,受傷直後は関節可動域制限が残存しており,この時期に再建術を行うと関節線維症を生じる可能性があります。そのため,急性期ではまず理学療法などの機能的治療法により基本的関節機能の回復を図り,受傷日より約2~3週間後に再建術を考慮します。
保存的治療では再度亜脱臼を繰り返し,高率に変形性関節症へ進行することが報告されています。また,ACL修復術は過去の報告から成績は不良とされており,ACL実質部に損傷がなく大腿骨付着部から剥離したようなavulsion typeの症例に限り修復術を考慮します。

後十字靱帯(posterior cruciate ligament:PCL)損傷

1.はじめに

後十字靱帯(以下,PCL)は大腿骨穎間窩内側壁前方に起始し,脛骨穎間隆起後方に付着する靱帯です。PCLの破断強度はACLの2倍とされており,ACLよりも強靱です。PCL損傷は膝関節屈曲位で下腿前面を打撲するかたちで強く着地した場合や,脛骨中枢部を前方から後方へ強い直達外力を受けた際に損傷されます。スポーツだけでなく交通外傷でのdash board injuryによって生じることも少なくないです。
PCL単独損傷は,不安定性が残存するにも関わらずその機能的予後は比較的良好であるため,保存的治療を選択することが多いです。しかしながら,他の靱帯損傷や半月損傷を合併する場合,また陳旧性PCL損傷に加えて他の靱帯損傷を合併した場合は再建術を選択します。

2.診断

a)Posterior drawer(後方押し込み)テスト

膝関節を屈曲位90°で保持し,下腿をしっかりと把持したうえで脛骨を後方へ押し込み動揺性を検査します。健側も同様の評価を行い,左右差を比較することが重要です。ストレスをかける際に大腿骨顆部前面と脛骨近位端前面の位置をよく触知し,整復位から後方へのストレスによるstep off形成(段差)を確認します。

b)Posterior sagging

患者を仰臥位としリラックスさせ,股関節屈曲位90°・膝関節屈曲位90°で左右差を比較します。PCL損傷側は脛骨が後方へ落ち込むため,両膝を側面より確認し,下腿近位前面の位置を比較するとより評価しやすいです。

1)単純X線像

ACL損傷と同様に,単純X線像では有意な所見を認めないことも多いです。脛骨側付着部での断裂の場合は,場合により裂離骨片を伴うこともあります。ストレスX線像やgravity sag viewは膝側面像で脛骨の後方への落ち込みを確認することができるため有用です。

2)MRI(図3)

図3

PCLはACLに比べ矢状断にて描出されやすいです。そのため完全断裂時は靱帯線維の完全な途絶または消失を認め,断裂時のMRIの診断能は高いです。PCL損傷だけでなく,半月,軟骨損傷の診断や後外側支持機構損傷合併にも有用です。しかしながらACL損傷同様に矢状断の方向によってはPCLが描出されにくい場合もあり,理学所見を第一に診断を進めます。

 

3.治療方針

新鮮PCL単独損傷に対しては関節可動域訓練大腿四頭筋訓練,agility訓練を中心とした保存的治療が第一選択となることが多いです。これは不安定感が少なくスポーツ可能な症例が多いこと,再建術による術後成績が必ずしも良好ではないことなどが理由として挙げられるためです。
PCL損傷でもACL損傷同様急性期では理学療法を中心とした機能的治療法を行うが,実質損傷のない剥離骨折に対しては修復術を考慮します。
新鮮PCL損傷の第一の手術適応は実質損傷のない剥離骨折もしくは複合靱帯損傷です。

内側側副靱帯(media1 collateral ligament:MCL)損傷

1.はじめに

膝靱帯損傷のなかで内側側副靱帯(以下,MCL)損傷は最も発生頻度が高いです。受傷機転は膝外側からの直達外力により外反強制されるものがほとんどですが,ACL損傷, PCL損傷など他の靱帯損傷を合併することもあり,診断には十分注意を要します。これらの合併損傷や受傷時期により治療方針は異なります。

2.理学所見

ACL損傷やPCL損傷などの関節内靱帯損傷に比べ関節血腫をきたす症例は少ないですが,軽度の関節血腫を伴うこともあります。著明な関節血腫を伴う場合は複合靱帯損傷の可能性も念頭に置き,診察を進めます。MCLは膝外反ストレスに対するprimary restraintであり,損傷されると外反ストレスにより内側関節裂隙が開大します。MCL損傷の多くは大腿骨側付着部にて損傷されるため,大腿骨内頼の大腿骨側付着部に著明な圧痛を認めることが多いです。一方,脛骨側付着部で損傷されるものは脛骨近位内側に圧痛を認めます。脛骨側付着部にて損傷されるものは保存的加療にて予後不良であるため手術加療が推奨されており,診察時に外反ストレステストのみならず圧痛点を十分に確認することが重要です。

1)徒手検査

a)外反ストレステスト

両手で下腿を把持し,外反ストレスをかけ関節裂隙の開大を評価します。筆者らは患肢を脇でしっかりと固定し,両母指を脛骨粗面において下腿が回旋しないようにしっかりと外反ストレスをかけるよう心掛けています。
伸展位において,著明な外反ストレスにて内側関節裂隙の開大を認めるものはMCL単独損傷だけでなく複合靱帯損傷の可能性も念頭に診察を進めます。

2)MRI(図4)

図4

MRIでは損傷部位の診断が可能です。徒手検査とともに合併損傷の有無も判断します。急性期ではT1強調像にてlow signal,T2強調像にてhigh signalを呈し,MCL線維が断裂もしくは断裂に伴い撓んでいる様子が認められます。一方,損傷部位では出血し膨化しているように認められます。

 

3.治療方針

新鮮損傷例では保存的加療の治療成績が非常に良好であると報告されており,新鮮単独損傷症例ではまず理学療法などの機能的治療法を選択します。しかし,脛骨側での断裂症例や断端が関節内に陥入しているような症例では,早期に観血的治療を選択します。

後外側支持機構(posterolateral structure:PLS)損傷

後外側支持機構(以下,PLS)は,主に膝関節外側の安定性に寄与している数々の靱帯や腱の複合体です。PLSの重要な構成体として主に外側側副靱帯(lateral collateral ligament:LCL)・膝窩筋腱(popliteus tendon:PT)・膝窩腓骨靱帯(popliteofibular ligament:PFL)が挙げられます。PLS損傷は膝関節靱帯損傷では比較的稀な症例ですが,交通事故などの高エネルギー外傷では複合靱帯損傷となり発症することがあります。そのため,単独損傷は少なく,ACL損傷やPCL損傷に伴うことが多いです。また,複合靱帯損傷の場合には受傷時に膝関節の脱臼を合併している可能性があり,急性期には膝窩動脈損傷や腓骨神経損傷などの血管・神経損傷の有無がないか,血管造影検査なども含めて精査することが必須です。

参考文献


荒木大輔 黒田良祐 MB Orthop.30(10):185-196,2017.
原邦夫ら 臨床スポーツ医学:Vol,34, No.12(2017-12)

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