感染による関節炎

はじめに

本来,無菌である関節に病原体が侵入すると感染による関節炎が発症します。病原体の種類は細菌・ウイルス・真菌など,さまざまですが,特に細菌に起因する化膿性関節炎は急速に進行し予後不良であり,治療が難渋することが多く,可及的速やかな治療が必要となります。急激に発症した局所の腫脹・発赤・熱感・関節液の貯留を伴う関節炎が発症した場合は,専門医の治療が必要です。また感染に起因すると考えられるいくつかの全身性関節炎がありますが,これらの診断には詳細な病歴の聴取が必要なばかりでなく,関節リウマチや変形性関節症その他の関節炎との鑑別が困難となる場合があり,専門医の受診を勧めます。

化膿性関節炎

多くは急激に発症する炎症所見(局所の腫脹・発赤・熱感・関節液の貯留)をともなう単関節または少関節の関節炎です。

起炎菌として頻度の高いものは,黄色ブドウ球菌が圧倒的に多く,他に緑膿菌,肺炎球菌,表皮ブドウ球菌がありますが,近年では大腸菌やMRSA(多剤耐性黄色ブドウ球菌)によるものも増えています。

外傷や関節穿刺に起因する化膿性関節炎は年齢に関係なく発症しますが,血行性など全身状態に起因する場合は3歳以下の乳幼児と60歳以上の高齢者で頻度が増します。糖尿病・関節リウマチ・透析患者・悪性腫瘍・肝硬変など,免疫状態が低下するような基礎疾患を有する患者で発症率は増加します。好発部位は膝関節ですが,乳幼児では股関節にも多いです。とくに乳幼児の場合,股関節に病変があっても痛みを訴えず股関節を動かさない(仮性麻痺)のみのこともあり注意を要します。

混濁した関節液

一般的には,全身の発熱をともなう急性発症の激しい単関節に発症する関節炎により診断は比較的容易です。血液検査ではWBC増多・好中球の左方移動・血沈亢進・CRPの上昇がみられます。ただし,結晶性関節炎ではよく似た急性の関節炎症状を呈するため鑑別が必要となります。この場合,関節液検査はきわめて有意義です。正常の関節液は膝関節であってもほとんど貯留することなく,無色透明で細胞数は180/μL未満でほとんどが単球です。しかし,非感染性の関節炎を発症すると細胞数は30,000~50,000/μL未満まで増加し,粘性や糖が低下して色調は黄色に変色しますが,結晶性関節炎ではときに増加した白血球のため乳白色に変色することがあります。感染性関節炎で細胞数は平均で100,000/μL(21,000~250,000/μL)と激増し,色調は起炎菌の種類により黄色~緑色に変色します。その白血球成分は90%以上が好中球です。

少しでも感染性関節炎が疑われる場合は,Gram染色培養検査は必ず行うべきですが,Gram染色が陽性で細胞数増多があり化膿性関節炎が疑われる場合は培養結果を待たずに治療を開始すべきです(軟骨の破壊は48時間以内に始まります)。

Gram染色の陽性率は60~80%であり,陰性でも感染性関節炎を否定できないです。また,淋菌やマイコプラズマなど培養結果が陰性となりやすいものについてはPCR法での確認が必要なこともあります。結晶性関節炎が否定できない場合は,偏光顕微鏡による結晶の観察を行います。痛風であれば典型的な針状~桿状の尿酸結晶が,偽痛風であれば長方形~桿状~菱形のピロリン酸カルシウム結晶を観察できます。

感染性関節炎の診断が付けば(疑いが極めて強い場合も含めて)可及的早期に治療を開始します。治療は抗菌薬の投与のみでは困難なことが多く,外科的に関節切開・排膿・洗浄・ドレナージを行います(状態に応じて滑膜切除も追加します)。予後は期待されるほど良くなく,何らかの関節障害が残る割合は25~60%であり,敗血症により死亡する割合は5~15%と報告されています。

淋菌性関節炎

最近は減少傾向にあり,日本ではまれな疾患ですが,米国での頻度は高く40歳以下の感染性関節炎の約7割を占めるという報告があります。関節炎は淋菌による菌血症により起こるため性交機会の多い若年層に多く,女性では月経や妊娠期間中に感染リスクが高まります。典型的な症状は,発熱・悪寒・四肢末梢伸側や体幹の丘疹・移動性の非対称性多発関節

炎や腱鞘炎です。

丘疹や関節炎は血液中を移動する淋菌により生じるため,関節液の培養は陰性のことが多く,血液培養の陽性率も45%未満と高くないです。好発部位は膝・手指・手・足趾・足関節です。尿道・子宮頸部・咽頭粘膜の分泌液の培養は診断的価値が高いです。診断に難渋することも多いため若年層の丘疹をともなう移動性関節炎症状があれば疑うべきです。

治療はセファロスポリン系抗生剤の投与に加え,検査で否定されるまでクラミジアの治療を並行して行います。

抗酸菌性関節炎

1.結核性関節炎

肺結核患者の約1%に認められるまれな疾患です。多くは単関節炎として発症します。頻度が高いのは股関節・膝関節といった荷重大関節ですが,局所の発赤や熱感といった炎症症状は乏しいです。数カ月から数年持続する単関節炎として発症し,ときには関節内に充満した膿が皮膚を穿破して瘻孔を形成することがあります。

関節液中の細胞数は増加し(20,000/μL),その約50%は好中球です。血液検査でWBC 増加・赤沈やCRPの増加は軽度認められることもありますが,必ずしも認められるわけではなく,ツベルクリンやクオンティフェロン(感染から陽転化まで8~10 週必要)が陽性でも関節結核を示唆するに過ぎないです。関節液の抗酸性染色の陽性率は1/3以下ですが,培養では関節液が約80%,滑膜組織は約90%が陽性となります。結核の場合,培養結果が出るまで時間がかかることから近年では PCRが頻用されています。

治療は結核薬3剤以上の多剤併用療法ですが,状態に応じて外科的な関節切開・排膿・洗浄・ドレナージ・滑膜切除を追加します。結核性関節炎が疑われた場合は,ただちに専門の結核診療医療機関に依頼します。

2.非結核性抗酸菌性関節炎

自然界で水中や土壌に存在するさまざまな抗酸菌が直接体内に侵入して発症する関節炎です。農作業・ガーデニング・水中作業などにより感染します。経過は結核性関節炎に似て慢性緩徐進行性ですが,好発部位は異なり手指や手関節であり,腱鞘滑膜炎を併発することも多く,関節リウマチによる手関節炎と誤診される場合もあります。菌種はさまざまですが,M. aviumとM. intracellulareを合わせたMycobacterium avium complex(MAC)が全体の 80%を占めます。

治療は抗菌感受性に基づいて行いますが,外科的療法が追加される場合も多いです。

真菌性関節炎

真菌性関節炎は,糖尿病や肝不全など免疫が低下した場合に,全身の部分症として発症する場合と関節注射の合併症として発症する場合があります。多くは痛みの少ない慢性の単関節炎です。関節液の細胞数は10,000~40,000/μL,7割は好中球です。関節液検査が陰性でも滑膜組織の培養や染色で診断の付くことがあります。頻度の少ない関節炎ですが,治療は外科的処置を含めた治療を要することが多いです。

ウイルス性関節炎

1.パルボB19

小児で伝染性紅斑(リンゴ病)の原因ウイルスとなるパルボ B19成人に感染し発病します。小児のように両頰の紅斑はなく,朝のこわばり,多発関節炎・微熱・全身倦怠感があり,多発性関節炎は手指・足趾・手足関節・肘・膝に出現し,関節リウマチに類似した症状を呈します。検査所見で白血球減少・低補体価・貧血・肝酵素上昇に加え,RF(リウマチ因子)やANA(抗核抗体)が陽性となることがあり,関節リウマチやSLEと誤診されることが多いです。典型的な場合は,前腕~手指・下腿~足趾の腫脹を伴います。また,成人でも四肢には網目状紅斑をみることがあります。経気道感染であるため地域や家族のリンゴ病流行の問診は診断に役立ちます。発症は晩秋~春に多いとされ,不顕性感染も多いです。成人のB19抗体陽性率は約50%です。関節炎の多くは2~14日で消褪しますが,持続するものについてはNSAIDで治療します。

2.肝炎ウイルスに伴う関節炎

B型肝炎の10%に斑状丘疹・蕁麻疹・発熱・関節痛(手指・手の対称性関節炎と朝のこわばり)が,黄疸が出る約 2 週間前に出現します。黄疸になると関節症状は消失します。C 型肝炎は20~30%に対称性関節炎・朝のこわばりが出現するばかりでなく,ときにRFも陽性となり,骨びらんも生じることから関節リウマチに類似します。鑑別には抗CCP抗体が有用です。肝炎関連関節炎の治療はNSAIDになります。

反応性関節炎

クラミジア・サルモネラ・赤痢・エルシニア・カンピロバクターなどの感染症により誘発された関節炎で感染後 4~6 週で発症します。尿道炎・結膜炎・脊椎関節炎を3 徴とします。Reiter 症候群(尿道炎・結膜炎・関節炎)反応性関節炎の一部と考えられております。関節炎の多くは一過性ですが,ときに慢性化し膝・足関節に好発する急性非対称性単~少関節炎となります。炎症による背部痛・踵骨・足底腱膜・アキレス腱に強い痛みを伴う腱付着部炎を併発することも多いです。ときに仙腸関節炎を合併し強直性脊椎炎との鑑別を要しますが,X 線変化はなく片側性が多いです。HLA-B27に関連し60~80%は陽性であるという報告があります。

参考文献

松野博明 成人病と生活習慣病 47 巻 9 号

関連記事

  1. 脊椎関節炎とは~炎症性背部痛には要注意!!~

  2. リウマチ治療への思い

  3. 高齢者に好発する関節炎~関節リウマチとの違い~

  4. リウマチとは~当院リウマチ診療の特徴~

  5. 痛風・偽痛風

PAGE TOP