脊椎関節炎とは~炎症性背部痛には注意が必要!!~
脊椎関節炎とは
炎症性背部痛には注意が必要!!
脊椎関節炎は仙腸関節や脊椎などの体軸関節に炎症を来たし、その他に腱や靭帯の付着部炎(アキレス腱や肩など)、末梢性関節炎、指趾炎、ぶどう膜炎、乾癬、炎症性腸疾患などを合併します。脊椎や関節の疼痛や靭帯付着部の炎症による運動制限、およびその合併症・続発症により患者様のquality of life(QOL)を大きく損なう疾患であります。
脊椎関節炎の疾患概念は、症状として体軸性及び末梢性に分類されます。体軸性には強直性脊椎炎(AS)、末梢性には乾癬性関節炎(PsA)が中心となっており、そのほかにSAPHO症候群(5%)、反応性関節炎(4%)、炎症性腸疾患関連脊椎関節炎(2%)、ぶどう膜炎関連脊椎関節炎、未分類脊椎関節炎などが含まれます。それぞれがオーバーラップしているというのがこれら疾患の特徴であり、HLA-B27との関連性が示された疾患であります。
*HLAとは
HLA(Human Leukocyte Antigen=ヒト白血球抗原)は1954年、白血球の血液型として発見されました。HLAは白血球だけにあるのではなく、ほぼすべての細胞と体液に分布していて、組織適合性抗原(免疫に関わる重要な分子)として働いていることが明らかになりました。
強直性脊椎炎とは
強直性脊椎炎(AS)は仙腸関節炎から発症する体軸性の関節炎です。関節の破壊より脊椎の強直が主な症状です。臨床的特徴である腰背部痛はありふれた症状であり、疾患マーカーもなく、X線変化も緩徐であることなどから、ASの診断、特に早期診断は必ずしも容易ではありません。
日本人の一般人口での保有率が0.2%であるHLA-B27を持つ頻度が高く、諸外国に比べて患者数が少ないこともあって、その診断・治療法が十分には普及していません。実際、確定診断に至るまでに数年の歳月を要しているケースも少なくなく、その診断・治療法が広く知られた関節リウマチとは対照的であります。
症状
特徴的な症状として、1)脊椎・仙腸関節炎による腰背部痛、2)下肢に優位な少関節炎、3)付着部炎が挙げられます。腰背部痛は炎症性背部痛(inflammatory back pain, IBP)が特徴とされ、強直性脊椎炎ではほぼ100%の患者で、乾癬性関節炎では40%~78%の患者でみられます。40歳以下で、運動で軽快し安静や同じ姿勢で悪化する特に明け方に強くなる腰背部痛が特徴です。このようなIBPは全ての腰痛の15%程度にみられると言われ、物理的な原因による腰痛に比べてNSAIDs(ロキソニンなどの抗炎症剤)の有効性が高いという特徴もあります。
付着部炎(enthesitis)とは、筋肉が腱、靭帯となり骨に付く部分である付着部に起こる炎症で、本疾患の特徴的症候と言えます。アキレス腱や足底腱膜の付着部にしばしば見られます。
上記の他に特徴的な症状として、いわゆる指(趾)炎(dactylitis)がみられることもあります。これは、ソーセージ様の手指または足趾の腫脹です。
さらに強直性脊椎炎患者では関節外症状、合併症がよく見られ、ぶどう膜炎・腸炎・骨粗鬆症・皮膚症状などがみられます。
検査
画像検査では手足、脊椎、骨盤のエックス線を施行し、特徴的な所見(骨びらん、靭帯骨棘、竹状脊椎など)を調べます。病気の初期ではエックス線では異常がみられないことも多いため、MRI検査を行います。2009年にASAS(Assessment of SpondyloArthritis international Society)により体軸性脊椎関節炎の分類基準が、2011年に末梢性脊椎関節炎の分類基準が作成されました。この分類基準を用いることによってレントゲン所見の見られない早期の状態で脊椎関節炎と分類し抗体製剤を含めた薬剤を用いて治療することが可能となりました。しかし、これはあくまでも分類基準であるため、最終的には詳細な病歴、家族歴の聴取や理学所見などから確定診断を下すことが肝要であります。分類基準には鑑別・除外診断がないため、分類基準のチェックリストにそのまま当てはめて診断をすれば、誤診や過剰診断に繋がることを理解しておく必要があります。
治療
治療は、患者教育や運動療法、リハビリテーション、薬物療法があります。薬物療法ではNSAIDs、サラゾスルファピリジン、副腎皮質ステロイド、生物学的製剤などがあります。薬物療法では、第一に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が使用されます。末梢関節炎が強い場合は抗リウマチ薬であるMTX・サラゾスルファピリジンが用いられます。
症状が強く、2種類以上NSAIDsを使用しても効果がない場合には、生物学的製剤の使用も考慮されます。現在ではTNFα阻害薬及びIL-17阻害薬が保険適応になっております。
乾癬性関節炎
症状
乾癬とは、鱗屑を伴う境界明瞭な紅斑で、肘や膝、頭皮、耳などに多くみられます。乾癬に関節症状が伴うものを乾癬性関節炎と呼ばれます。乾癬患者さんの約10〜30%に生じ、手足や脊椎、かかとやアキレス腱付着部、仙腸関節に痛みが生じます。また1本の指全体が腫れソーセージ様になる指趾炎を呈することがあります。爪剥離や陥凹など爪症状がみられることも特徴です。多くは皮膚の症状が先行して関節症状がみられますが、関節症状が先にみられることもあります。
検査・診断
血液検査では赤沈やCRPの上昇がみられ、一般的にはリウマトイド因子や抗CCP抗体は陰性です。手足、脊椎、仙腸関節のエックス線を行い、特徴的変化(骨びらん、骨増殖像、傍脊柱骨化、骨棘形成など)をチェックします。また早期診断には関節エコーやMRI検査も有用です。診断には、皮膚科医(乾癬、爪症状)とリウマチ専門医(関節炎、指趾炎)の協力が必須です。
治療
治療は、末梢関節炎、脊椎関節炎、指趾炎、付着部炎、皮膚・爪病変でそれぞれ異なります。まずNSAIDsを使用し、末梢関節炎に対しては経口抗リウマチ薬(メトトレキサート、サラゾスルファプピリジンなど)を使用します。経口抗リウマチ薬の効果が不十分なとき、脊椎炎、付着部炎には、生物学的製剤が考慮されます。現在TNFα阻害薬、IL-12/23阻害薬、IL-17阻害薬が承認され、JAK阻害剤の使用も可能となりました。
参考文献
脊椎関節炎診療の手引き2020 日本脊椎関節炎学会編集