肩痛
厚生労働省による国民生活基礎調査では白覚症状の順位が報告されています。平成28(2016)年度調査では,男性では「腰痛」が最も多く,次いで「肩こり」であり,女性では「肩こり」が最も多く,次いで,「手足の関節が痛む」となっており、「肩こり」は男性では2位,女性では1位の自覚症状であったことが報告されています。
肩関節周囲炎
肩関節周囲炎は緩徐あるいは急激に進行する肩関節痛とともに,関節の動きが悪くなること(可動域制限)を特徴とする炎症性の疾患です。
肩関節周囲炎は五十肩と言われており、その名の通り世界的にも発症の平均年齢は50代です。一般的に女性が多く,非利き手側のほうが多いです。
特に治療を要さなくても1年半から2年で自然治癒すると言われてきましたが,最近の研究では,長期間にわたって何らかの痛みが残っている患者さんが半数近くいるとの報告もあり,難治性にさせないためにも整形外科受診をお勧めいたします。
病期に関して
①(freezing期)発症初期では痛み症状と可動域制限が増強します。
②(frozen期)その後は可動域制限や疼痛が一定期間続きます。
③(thawing期)その後に疼痛の減少と可動域制限の改善が得られます。
上記の3期に分かれるとされていますが,実際にははっきりと分けられないことが多々あります。
夜間痛を呈するなど強い炎症が生じている時期では無理な自動・他動運動は控え,消炎鎮痛剤内服やステロイド注射など炎症を軽減させるための保存療法を行い,疼痛の改善が得られたのちに徐々に可動域訓練や理学療法などを進めていきます。糖尿病や甲状腺疾患をもっている患者では難治化することが多く,難治例には手術治療が選択されることもあります。
最近の知見として,肩関節周囲炎には病的な新生血管と,それに伴う神経線維との関与が報告されており,病的な新生血管に対する選択的塞栓治療が有効であると報告されています。
頚肩腕症候群
頚肩腕症候群は,頚部から肩・上肢への疼痛やしびれを主訴とする疾患群の総称です。一般的には,神経学的所見・画像所見から診断される変形性頚椎症や頚椎椎間板症,椎間板ヘルニア,胸郭出口症候群などが広義の特異的頚肩腕症候群とされています。
治療としては,NSAID,筋弛緩剤,ビタミンB12製剤などの投薬治療が第一選択です。消炎鎮痛剤含有の外用薬も有効です。リハビリテーションとしては,ホットパックやマイクロなどの温熱療法,低周波や超音波,レーザーなどの電気治療牽引治療などの物理療法,ストレッチやリラクゼーション,体操などの運動療法,マッサージなども併せて行っていきます。
頚部から上肢に至る疼痛やしびれ以外にも,めまい・動悸・眼症状など自律神経症状,上肢違和感・鈍重感,頭痛,睡眠障害などの愁訴を伴うこともあります。これらの症状が長時間のデスクワークやパソコンでの作業に起因する場合や,ストレス,寒冷刺激,気候変動などにより増悪する場合もあります。
肩こり
筋肉が収縮する際には,カルシウムイオンが必要であり,一方で弛緩する際にはATP(アデノシン三リン酸)と言われるエネルギーが必要となります。
しかし,overworkや長時間の同一姿勢による筋収縮が続くと,血管が圧縮されて血流が悪くなり,酸素不足となりATPなどが不足します。また,交感神経節の反射活動によって放出されるノルアドレナリンが痛覚受容器を過敏にし(痛みを感じやすくさせ),交感神経活動の充進がますます血流を不足させます。酸素不足でATPが不足すると,筋肉が緩むことができなくなり,無意識でも収縮が続くことになり,それが「こり」となり「痛み」を生じさせます。筋肉の無意識の収縮やこりの状態が長く続くと,元の状態に戻れなくなる器質的変化を起こし,症状も持続的となり,筋の萎縮や関節拘縮をきたし,日常生活に支障をきたします。また,元来の緊張性格が加われば,症状の悪化や筋収縮性頭痛も引き起こすことがあります。
参考文献
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奥野祐次 池上博泰 Nippon Rinsho Vol.77、No.12,2019-12
橋口宏 MB Orthop.28(5):51-56,2015