腰痛に関して

腰痛に関して

腰痛は国民の代表的な愁訴であります。2016年に厚生労働省が公表した「国民生活基礎調査の概況」によると、腰痛は有訴者率が男性で第1位、女性は肩こりに次いで第2位で、男女の合計では最も有訴者率が高い症状であります。この傾向は10年以上続いております。
腰痛は高齢者の寝たきり・要介護の原因であり、健康寿命に重大な影響を及ぼしています。一方で腰痛は若年者の不労の原因でもあります。すなわち、腰痛対策は年齢を問わない社会的課題であるといえます。

次に腰痛に関しての最新の知見を含めて詳細を述べます。

腰痛の診断(トリアージ)

腰痛は椎間板,椎間関節,神経根など,さまざまな解剖学的構造から発症し,脊椎由来,神経由来,内臓由来,血管由来,心因性などに分類されます。特に,以下の3つの診断学的トリアージが重要です。すなわち,①危険信号 red flags(表)を有し,重篤な脊椎疾患(腫瘍, 感染,骨折など)が疑われる腰痛,②神経症状を伴う腰痛および③非特異的腰痛であります。その診断のためには,注意深い問診と身体検査が必須です。

これらをまとめて,図1のようなアルゴリズムが提唱されています。①危険信号red flagsを有する腰痛は比較的まれではありますが,がん治療の成績向上や,社会の高齢化のため,今後増加してくることが予想されます。②神経症状を伴う腰痛の場合は,神経学的所見が重要となります。脊柱所見や神経緊張徴候を確認し,深部反射,筋力,および感覚の評価を行い,責任高位を推察します。一方,下肢痛を伴わない腰痛の場合は解剖学的に器質的異常の正確な診断が困難であるとされ,③非特異的腰痛と呼称されます。臨床で実際に関わる多くの慢性腰痛は,この非特異的腰痛です。これらを参考にして画像検査や血液検査をただちに行い,原疾患の特定に努めます。

腰痛診療ガイドライン2019より作成

腰痛診療ガイドライン2019より作成

治療

薬物治療

腰痛診療ガイドライン2019より作成

腰痛に対して使用可能な薬剤は多彩であり,治療の幅は広がってきました。ガイドラインでは,質の高い研究に基づいたエビデンスに基づき,推奨度を示しています(表)。実際には,年齢や症状および合併症を考慮して,薬剤を使い分ける必要があります。また,効果を定期的に評価し,漫然と投与しないよう注意します。

注射療法

従来行われてきた注射療法にはトリガーポイント注射,硬膜外ブロック,神経根ブロック,椎間関節ブロックおよび椎間板内注射があります。特に後者3つは,鎮痛効果に加えて,その効果によって疹痛の原因を同定できることもあり,治療だけでなく検査の側面を持ちます。

また近年は,fascia release,fascia hydroreleaseと呼ばれる注射療法が注目されています。本治療は,運動器疾患における超音波検査の活用,超音波検査機器の発展を背景として広がっており,局所麻酔薬を使用せずに,生理食塩水による液性剥離を日的としている点が,トリガーポイント注射と異なります。特長としては,超音波検査で病変部の評価を行いながら,同時に穿刺部位にリアルタイムで薬液を注人できるため,安全かつ正確であることが挙げられます。今後は,治療効果の機序に関する基礎研究や質の高い臨床研究が必要であります。

運動療法

ガイドラインにて強く推奨されており,運動の頻度に関しては週に1~3回行うことが推奨されています。期問に関しては,骨格筋の生理的変化を期待するなら最低10~12週以上が必要という報告があります。どのような属性の患者にどのような運動がどの程度必要かに関しては,今後質の高い研究が待たれます。

生活習慣の指導

前述の運動療法とも関連しますが,運動不足は腰痛発症の危険因子です。また,喫煙も危険因子であります。一方,肥満度(BMI)が腰痛の発症に相関するというエビデンスは現在のところないです。最新のシステマティックレビューとメタ分析の結果からは,運動と教育の組み合わせが腰痛の発症リスク減少に最も有効であることが示されています。

手術療法

腰下肢痛が神経根ブロックにて少なくとも一時的に消失する場合,保存的療法無効例に対して考慮されます。責任神経根の除圧術が行われますが,腰椎変性すべり症などの一部の病態においては固定術が併用されることもあり,その是非については,いまだ結論は得られていません。

認知行動療法

ある出来事に対する認知(捉え方)と行動を変えることで,問題への効果的な対処の仕方を習得させ,この心理教育により,患者が自身のカウンセラーとなり症状の予防ができるようにする治療法であります。もともとは心身医療科での心理療法の一つとして用いられていましたが,慢性腰痛の治療法としても用いられることもあり心身医療科との連携が必要となります。

最新の知見

慢性腰痛のうち非特異的腰痛では,その80%に抑うつ状態が認められるといわれており,痛みに苦しむだけでなく,感情的に苦悩し,抑うつ的になり,痛み行動へと進展します。慢性腰痛の患者においては,その病態を生物・心理・社会的疹痛症候群という概念で捉える必要があり,従来とは異なる視点からのアプローチが必要であるとされています。疼痛メカニズムの解明により,新たな治療薬として前述したセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が注目されています。本薬剤は,μオピオイドの作用点である疼痛抑制機構に関与するセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを抑制することで,下行性疼痛抑制系を賦活化し.鎮痛効果をもたらすと考えられています。

慢性腰痛は,近年病態の解明が進み,研究ガイドラインの整備により治療の標準化が進んでいます。薬物療法の選択肢は広がり,運動療法・生活指導は高騰する医療費・予防医学の観点から重要性が高まっています。ガイドラインは一つの指針となるものの,これを参考にした上で,実際の患者の生活・環境に即した形で適用する必要があり,ここに医師の技量が問われます。健康寿命の延伸のため,腰痛でお困りの方は当院にご相談ください。

参考文献


三枝 徳栄,筑田 博隆 Pharma Medica vol.38 No.1 2020
小林 洋 紺野愼一 Nippon Rinsho Vol.77、No.12,2019-12

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