痛風と偽痛風
【痛風とは】
痛風は、体液中で飽和した尿酸ナトリウム塩結晶が関節及び関節周囲組織へ沈着することによって発症します。多くは急性発症で痛風発作と呼ばれ、主に下肢に単一の関節炎として発症します。痛風発作は特に足部に好発し、母趾中足趾(metatarsophalangeal joint; MTP)関節(母趾の付け根)や他の足趾、足関節、足根部に多く見られ、腱付着部に見られることもあります。原因が明らかでなく、特に男性で足部に急性の単一の関節炎を生じた場合、痛風発作の可能性を考慮します。
症状
発作前に約50%の症例で前兆を自覚し、6~12時間後に発作が始まります。発作は通常24時間以内にピークを迎え、3~4日後には自然に改善(寛解)します。次の痛風発作が起こるまでは無症状です。また、これまでに健診などでの高尿酸血症の有無、食事、飲酒、家族歴、痛風結節の有無について確認します。
初回発作の約80%は単関節炎ですが、発作を繰り返すうちに多関節炎で発症することがあります。
検査
一般には、血液検査(尿酸値、CRP、血沈、白血球など)、画像検査(X線、超音波)を行います。発作を繰り返す部位ではすでに関節変形をきたしていることがあります。また、超音波では尿酸塩結晶が関節軟骨表面に沈着し、層状に高エコー結晶像が認められる”double contour sign”という特徴的な所見(軟骨表面と骨表面の二重の高エコーライン)が認められます。
関節液中に尿酸ナトリウムの針状結晶を認めると診断が確定します。
診断
足部に特徴的な急性関節炎があり、高尿酸血症、炎症反応上昇が確認できれば診断は比較的容易です。ただし、痛風発作中には血清尿酸値は必ずしも高値を示さないです。過去に血液中の尿酸値が高い時期がどれくらい長く持続していたかが重要です。放置すると発作を繰り返し、発作の間隔が次第に短くなります。
治療方針
基本は保存療法である。足部に前兆を自覚した場合にはコルヒチンを内服して発作を予防します。コルヒチン1錠(0.5mg)を内服し、痛風発作が頻発する場合にはコルヒチン1日1錠連日投与します(コルヒチン・カバー)。ただし発作が始まった後のコルヒチン投与は無効です。
発作時に腎障害に注意しながら、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を大量に短期間のみ服用します。発作時に尿酸降下薬を新たに投与してはいけません。その理由として、痛風発作時に投与して尿酸値を変動させると関節炎が増悪するからです。ただし、尿酸降下薬投与中に発作が起きた場合はそのまま投与を続けます。症状の改善が見られない場合、副腎皮質ステロイドの全身投与もしくは関節内注射を行います。
合併症
痛風発作による関節炎は尿酸の代謝異常が原因であり、尿酸値を指標に治療を行う必要があります。放置すると尿酸塩沈着による痛風結節や尿路結石が生じ、さらにメタボリックシンドロームや、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの他の生活習慣病や慢性腎不全を合併し、徐々に動脈硬化も進行して心血管疾患のリスクを高める危険性があります。
参考文献
金城聖一 今日の整形外科治療指針第8版in press
猪狩勝則 MB Orthop.32(5):55-61,2019
偽痛風
【疾患概念】
偽痛風はピロリン酸カルシウム結晶による誘発性関節炎です。高齢者に多く発症する急性関節炎であり,全身の疼痛や発熱・炎症反応高値などを特徴とするため,不明熱や化膿性関節炎を疑われることがあります。高齢発症関節リウマチとの鑑別が必要となります。
【診断】
急性発症の単~少関節炎で,突然に強い関節炎を生じ、疼痛および熱感を伴う関節腫脹を呈します。血液検査では炎症反応(CRP高値)を認めます。
関節液にてピロリン酸カルシウム結晶を認めます。感染症を否定できれば確定診断できますが、特に人工関節置換術後においては慎重な対応が必要となります。(関節液培養検査が陰性だからと言って、必ずしも感染症を否定できるわけではありません。)関節液のドレナージや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)による治療反応性がよいことも本症の診断の助けとなります。
X線で典型的な軟骨石灰化像を認め,エコーで関節軟骨内にピロリン酸カルシウム結晶による石灰化所見を検出することができます。ピロリン酸カルシウム結晶は軟骨組織で産生されるため,関節軟骨内や半月板などの軟骨内にみられることが特徴です。
頚椎偽痛風(別名:Crowned dens syndrome)も高齢者においては比較的見られます。頚椎C2の歯突起周囲(環軸椎関節)にピロリン酸カルシウム結晶が沈着し歯突起周囲に炎症を引き起こし,急性発症の頚部痛を認め,発熱も伴います。頚部は疼痛のため動かせなくなります。環軸椎関節のCTで,歯突起周囲の石灰沈着を確認できます。
【治療】
通常NSAIDs投与で速やかに改善しCRPも低下しますが,NSAIDs抵抗例では短期のステロイド療法を行うこともあります。
参考文献
杉原毅彦 Geriat.Med.57(12):1131~1134,2019
岡野匡志 MB Orthop.32(12):135-141,2019