肩痛

日本では厚生労働省による国民生活基礎調査により白覚症状の順位が報告されていますが,平成28(2016)年度調査では,有訴者率(人口千対)は男性では「腰痛」(91.8人)の有訴者率が最も高く,次いで「肩こり」(57.0人),「せきやたんが出る」(50.5人)であり,女性では「肩こり」(117.5人)が最も高く,次いで「腰痛」(115.5人),「手足の関節が痛む」(70.2人)と、男性では2位,女性では1位の自覚症状であったことが報告されています。
次に肩痛の原因となる主な疾患の詳細を述べます。

肩関節周囲炎

肩関節周囲炎は軽微な外傷を誘因とする,あるいは特に誘因を伴わずに緩徐あるいは急激に進行する肩関節痛とともに,全方向性に可動域制限を特徴とする炎症性疾患です。
肩関節周囲炎は五十肩の俗称のごとく世界的にも発症の平均年齢は50代です。人口の2~5%が罹患し,患者の20~30%が反対側にも発症します。一般的に女性が多く,非利き手側のほうが多いです。
肩関節周囲炎の自然史は,特に治療を要さなくても1年半から2年で自然治癒すると記載されてきましたが,比較的最近の大規模なコホート研究では,発症後7年が経過しても35%から50%の患者に何らかの痛みが残っていると報告されており,難治例が一定数存在することが分かっています。

発症初期(freezing期)では痛み症状と可動域制限が増強し,その後は可動域制限や疹痛が一定期間続き(frozen期),その後に疹痛の減少と可動域制限の改善が得られる(thawing期)の3期に分かれるとされていますが,実際の臨床でははっきりと分けられないことも多々あります。夜問痛を呈するなど強い炎症が生じている時期では無理な自他動運動は控え,消炎鎮痛剤内服やステロイド注射など炎症を軽減させるための保存療法を行い,疼痛の改善が得られたのちに徐々に可動域訓練や理学療法などを進めていきます。糖尿病や甲状腺疾患をもっている患者では難治化することが多く,難治例にはマニピュレーションや関節鏡下関節包切離術などの侵襲的な治療が選択されることもあります。
最近の知見として,肩関節周囲炎には肩甲上腕関節の関節包に病的な新生血管と,それに伴走する神経線維が新たに伸長されることが報告されており,これらの病的な新生血管を選択的に塞栓するインターベンション治療も新しい治療法として報告されています。

頚肩腕症候群

頚肩腕症候群は,頚部から肩・上肢への疾痛やしびれを主訴とする疾患群の総称であります。一般的には,神経学的所見・画像所見から診断される変形性頚椎症や頚椎椎間板症,椎間板ヘルニア,胸郭出口症候群などが広義の特異的頚肩腕症候群とされ,明らかな他覚所見を認めずに愁訴を有するキーパンチャー病などが狭義の非特異的頚肩腕症候群と定義されます。
治療としては,ロキソプロフェンナトリウムやセレコキシブなどのNSAID,エペリゾン塩酸塩やチザニジン塩酸塩などの筋弛緩剤,ビタミンB12製剤などの投薬治療が第一選択です。消炎鎮痛剤含有の塗付剤や貼付剤などの外用薬も有効です。リハビリテーションとしては,ホットパックやマイクロなどの温熱療法,低周波や超音波,レーザーなどの電気治療牽引治療などの物理療法,ストレッチやリラクゼーション,体操などの運動療法,マッサージなども併せて行っていきます。
頚部から上肢に至る疼痛やしびれ以外にも,めまい・動悸・眼症状など自律神経症状,上肢違和感・鈍重感,頭痛,睡眠障害などの愁訴を伴うこともあります。これらの症状が長時間のデスクワークやパソコンでの作業に起因する場合や,ストレス,寒冷刺激,気候変動などにより増悪する場合もあります。こうした症例に対しても対症療法をまず選択し,前述の投薬やリハビリテーションを行っていきます。さらに,疼痛やしびれ以外の上記愁訴を訴える症例には筋弛緩作用も有するジアゼパムやエチゾラムなどの抗不安薬,日中の生活動作に支障をきたす唾眠障害に対しては催眠鎮静剤を用います。

肩こりの病態

筋の無意識の収縮やこりの状態が長く続くと,究極には元の状態に戻れなくなる器質的変化を起こし,症状も持続的となり,筋の萎縮や関節拘縮をきたし,日常生活に支障をきたします。また,元来の緊張性格が加われば,症状の悪化や筋収縮性頭痛も引き起こすことがあります。自律神経症的な不定愁訴が前面に出て症状が深刻化すると,全身の自律神経失調症も呈することもあります。
筋は,1本1本の筋線維の,ミオシンフィラメントがアクチンフィラメントを引き寄せることで収縮します。筋が収縮する際には,カルシウムイオンが必要で,弛緩して緩むときにはATP(アデノシン三リン酸)が必要となります。
しかし,過用や長時間の同一姿勢による筋収縮のために,血管が圧縮されて阻血が生じ,酸素分圧が低下しエネルギー供給源となるATP(アデノシン三リン酸)などが不足します。また,交感神経節後線維から反射活動によって放出されるノルアドレナリンが痛覚受容器を過敏にし,交感神経活動の充進が血流を不足させます。ATPは,収縮した筋のミオシンとアクチンを引き離す役割があり,筋を緩める働きがあり,酸素不足でATPが不足すると,ミオシンとアクチンの連結が切れないままになり,無意識でも収縮が続くことになり,「こり」となり「痛み」が生じます。

肩こりに対するアプローチ法

肩こりや首こりを生じさせる原因には,過用,不良姿勢,寒冷・精神的緊張などによって筋が短縮位(肩をすくめた.いかり肩の状態)で過剰な収縮を生じている場合や,筋力低下を伴って常に筋が伸張位(なで肩の状態)で過剰な負荷を強いられている場合があります。
また,いかり肩やなで肩ではないにも関わらず,肩まわりの筋を使いすぎることで,肩こりや首こりが起こる人も多くいます。
首を前屈位に長時間保持したり,猫背であごを突き出すような姿勢は,後頭下筋群を過緊張させてうなずくことが難しくなり,代償的に第4/5頚椎を屈曲することで,ストレートネックも進行させてしまうことがあります。

肩こりのリハビリ

リハビリは,物理療法,徒手理学療法,運動療法,セルフエクササイズなどで構成されます。
物理療法は,頚椎牽引,温熱療法(ホットパック,極超短波療法など)などがあります。
徒手理学療法では,可動域制限や痛みがある場合に,その原因が関節運動に関与する組織(筋・滑液包・腱付着部・神経・骨膜など)であれば結合組織や筋に対するアプローチを,関節を構成する組織(骨・関節包・靱帯)であれば関節系に対するアプローチを用い,関節構造や関節周囲構造へのアプローチによっても解決できない神経系の問題の場合には神経系に対するアプローチ(神経モビライゼーション)も実施します。軟部組織に対する徒手理学療法には,筋膜リリースや,筋膜マニピュレーション,マッサージ,軟部組織モビライゼーション[横断マッサージ,機能的マッサージ,hold-relax(等尺性収縮後弛緩),スタティック(静的)・ストレッチング,拮抗筋の最大随意収縮オートストレッチング]などがあります。関節系に対するアプローチとしては,関節モビライゼーションや関節マニピュレーションなどがあります。

参考文献


Hand C, et al:Long-term outcome of frozen shoulder. J Shoulder Elbow Surg 17:231-236,2008
Shaffer B, et al:Frozen shoulder. A long-term follow-up. J Bone Joint Surg Am 74:738-746,1992.
奥野祐次 池上博泰 Nippon Rinsho Vol.77、No.12,2019-12
橋口宏 MB Orthop.28(5):51-56,2015

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