その関節痛、甲状腺に問題あり!?
甲状腺ホルモンと運動器障害
50歳以降(更年期以降)の女性に手指の第1関節や第2関節に変形性関節症(へバーデン結節・ブシャール結節)が好発することはよく知られています。医療機関を受診して「リウマチではないです,年齢による変形です」と説明され,治療をあきらめている患者さんもいらっしゃると思います。ただ、そのような患者さんのなかに年齢とは不釣り合いに高度な手指関節の変形があり,甲状腺疾患との関連がある場合があります。甲状腺ホルモンは骨・関節などの運動器にさまざまな影響を与えます。甲状腺機能亢進症では骨代謝が亢進し骨粗鬆症,筋肉痛,手指振戦がみられ、甲状腺機能低下症では手指の変形性関節症、手根管症候群、腱鞘炎などがみられます。
今回、甲状腺ホルモンと関節症状に関してお話しをしたいと思います。
甲状腺ホルモンとは
甲状腺とは、ノドボトケの下にある蝶のような形をした臓器で、甲状腺ホルモンを分泌しています。甲状腺ホルモンは、カラダ全体の新陳代謝を促進する働きがあります。通常、甲状腺ホルモンは、多すぎたり少なすぎたりしないようバランスが保たれていますが、そのバランスが崩れると様々な症状が起こります。
甲状腺の働きが低下して、甲状腺ホルモンが不足すると、元気がなくなり、疲れやすくなります。寒がりになり、皮膚は乾燥してカサカサしてきます。声も嗄れてきます。便秘、顔のむくみ、体重が増えてきます。動作は遅く、物忘れが多くなり、一日中眠くなったりします。
甲状腺機能亢進症
甲状腺ホルモンが過剰になった場合は、暑がりで汗かきになります。脈が速くなり動悸がします。手や指が小刻みに震えます。食欲は旺盛なのに痩せてきます。イライラし、気ばかりあせりますが、体は疲れやすく、ついて行けません。筋力が低下し、ひどいときには立てなくなったりします。
両者に共通した症状として、疲労感・脱毛・むくみといった症状があります。
これら症状は、同時に全て揃うというものではなく、一つ一つの症状も甲状腺が腫れるということ以外は甲状腺に特有というものではありません。そのため、他の病気と間違われていたり、原因がわからずに様々な診療科にかかっていたりします。
甲状腺機能と関連した手指の症状
全身的な症状のみならず、手指を中心とした痛み・変形・しびれ等の症状を生じます。
手指変形性関節症
年齢や労働強度に不釣り合いな強い変形がある場合は甲状腺機能低下症を疑います。
手根管症候群(手指のしびれ)
甲状腺機能低下症は全身の浮腫をきたします。手指全体の浮腫や皮膚温低下があれば甲状腺機能低下症を疑います。
腱鞘炎
手根管症候群と同様に手指全体の浮腫や皮膚温低下があれば甲状腺機能低下症を疑います。
筋肉痛
血液検査で筋肉の酵素(CPK)の上昇がみられることがあります。
甲状腺機能亢進症を疑う症状
手指振戦
手指振戦は甲状腺機能亢進症の特徴的な症状のひとつです。
骨粗鬆症
年齢に不釣り合いに骨の強度が低下している場合、甲状腺機能亢進症を疑います。
診断
甲状腺ホルモン(FT3・FT4)と、それを調節している甲状腺刺激ホルモン(TSH)というホルモンを血液検査で測定します。その値によって低下症・亢進症を診断します。
甲状腺ホルモンに異常があると、コレステロールや肝臓の数値・筋肉の酵素にも異常がみられることがあります。また、貧血になる場合がありますので、それら一般の血液検査もしておきます。
まとめ
甲状腺疾患は必ずしも甲状腺が腫れるわけではないため,患者さんは「甲状腺の病気でしょうか」といって医療機関を受診することは少なく、また様々な症状を訴えるため,疑わなければなかなか診断できない疾患といわれております。日本内分泌学会によれば橋本病(慢性甲状腺炎)は成人女性の10人に1人,成人男性の40人に1人にみられ,40歳以上の女性の1%に橋本病による甲状腺機能低下症患者さんがいる,と記載されております。
手指の変形や関節痛を「たんなる年齢によるもの」と断定せずに、注意深く診察・問診を行うことで、甲状腺疾患の早期診断が可能となることがあります。とくに,年齢や労働強度に不釣り合いな複数指の変形性関節症がある場合、関節リウマチのほかに橋本病などによる甲状腺機能低下症の合併がないかにも注意する必要があります。手指の症状から治療可能な疾患の発見につながり,救われる患者さんが増えることを祈念します。
参考文献
成澤弘子 LoCo CURE voL8 no.3 2022
山本康次郎 薬局2021, vol 72、 No. 4