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骨の治療と歯の健康~7年ぶりにポジションペーパーが改定されました!~

骨の治療と歯の健康~7年ぶりにポジションペーパーが改定されました!~

薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:ポジションペーパー2023

超高齢化社会を迎え、骨粗鬆症の適切な治療により高齢者の骨折を予防することは重要課題であります。
現在、さまざまな治療薬がありますが、骨粗鬆症治療は長期にわたるため、骨の吸収を抑えることで骨を強くする薬剤「骨吸収抑制剤」を使用する機会が多く、今後も骨粗鬆症治療において中心的な薬剤であります。
この「骨吸収抑制剤」を使用している場合、歯科での治療で「顎骨壊死」という副作用のお話しを聞くことがあり、不安になることがあるかもしれません。
「顎骨壊死」への対応策として、骨吸収抑制薬関連顎骨壊死のポジションペーパー(方針書)が 2016 年に発表されましたが,その後も患者数は増加傾向であり,予防や治療に関するエビデンスが蓄積してきたことから,本年度、新たなポジションペーパーが作成されました。

2023改定のポイント

①顎骨壊死発症の契機として歯性感染症を重視
②原則として抜歯時に骨吸収抑制薬を休薬しないことを提案
③医歯薬連携の充実を図り,骨吸収抑制薬投与開始前に歯科の受診を強く推奨
の3点が注目すべき改定ポイントとなります。

①顎骨壊死発症の契機として歯性感染症を重視
以前は抜歯などの侵襲的歯科処置が重視されていましたが,「歯周病や根尖病変などの炎症性歯科疾患があることがリスク」であり,「抜歯は顎骨壊死の発症を促すのではなく,顎骨壊死を顕在化させる」と考えられるようになりました。抜歯せず感染が持続することがリスクとなります。抜歯すべき歯にもかかわらず歯科で抜歯してもらえない「抜歯難民」など抜歯に対する誤った認識が解消されることが期待されております。

②原則として抜歯時に骨吸収抑制薬を休薬しないことを提案
抜歯前2-3カ月間の低用量ビスホスホネートの休薬でもビスホスホネート関連顎骨壊死の発症が有意に減少しなかったことや,骨吸収抑制休薬による待機期間中に顎骨骨髄炎や顎骨壊死が進行するリスク、また骨粗鬆症性関連骨折のリスクが上昇することより、現状においては休薬の有用性は示されませんでした。一部のハイリスク症例を除いて、「原則として抜歯時に休薬は不要」と考えられております。

③医歯薬連携の充実を図り,骨吸収抑制薬投与開始前に歯科の受診を強く推奨
「投与開始前は口腔内の管理状態を確認し,『必要に応じて』,患者に対し適切な歯科検査を受け,侵襲的な歯科処置をできる限り済ませておくよう指導すること」と,患者に口頭で歯科受診を指導となっていますが,口頭での受診の指示は不確実となりやすく、意図が正確に伝わりにくい可能性もあります。今後は文書での情報提供による連携を目指します。

まとめ

「顎骨壊死」の確率は1万人~10万人に数人と極めて低い頻度です。口腔衛生管理によりそのリスクは低下することがわかっており、虫歯があったりして抜歯などの治療が必要な人には、先に歯科で口の中の治療を行ってから骨粗鬆症の治療を開始します。
骨吸収抑制剤の治療中に抜歯が必要となった場合、基本的にはお薬の中止は不要と考えられています。
口腔内の定期的なクリーニングを行うことで「顎骨壊死」の発症リスクは低下しますので、かかりつけの歯科の先生と連携して骨粗鬆症の治療を行っていくことが重要です。

この副作用は非常に珍しいものなので過度に心配せず、不安があればいつでも当院スタッフにお伝えください。リスクを恐れて骨粗鬆症の治療を中止するのは患者様にとって不利益が大きいと考えられています。
骨吸収抑制剤の休薬の意味を全医療者及び患者に啓発していくことは重要であります。また投薬前のみの医科歯科連携ではなく、投与中の密な医科歯科連携と口腔衛生管理は重要であり、骨折・骨密度低下・治療中断・再開拒否などの不利益を患者さんが受けないようにチーム医療体制を構築することが求められております。

参考文献

薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023