妊娠後骨粗鬆症について

妊娠後骨粗鬆症とは

妊娠後骨粗鬆症(pregnancy and lactation-associated osteoporosis:PLOP)とは,若年女性が妊娠期または授乳期に骨の脆さから骨折を起こす,まれな疾患です。
典型的な症状として、分娩直前から産後6カ月ほどの時期に背骨の脆弱性骨折を生じて腰痛が出現します。

お腹の赤ちゃんへのCa供給及び母乳のCa供給が骨に影響

妊娠末期には100~150mg/kg/日のカルシウムを,特に分娩直前の6週間には300~500 mg/日のカルシウムを胎児に供給する必要があります。母親は妊娠中、特に末期にはたくさんのカルシウムを必要としますが、腸管からのカルシウム吸収増加により賄われます(腸管からのカルシウム吸収効率が倍増することにより,妊娠中期までは 多くの妊婦においてカルシウムバランスは正(+)に保たれます。)

出産後は新生児におけるカルシウム蓄積速度は妊娠末期の胎児よりは小さく,母乳中への母親のカルシウム供給は約210mg/日となりますが、分娩後には腸管からのカルシウム吸収は通常レベルに戻り、母乳中のカルシウムの大半は母親の骨が材料となり、骨の再吸収により賄われます。残念なことにいくら食物でカルシウム摂取量を増加させても授乳中の骨減少を抑制できないことが示されています。
6カ月齢までの新生児の栄養を母乳のみで賄おうとする場合、妊娠全期間9カ月の約4倍のカルシウムを供給しなければならなく、3~6カ月の授乳期間中に母親は5~10%の海綿骨を失います。閉経後女性が平均して毎年1~2%の骨を失うのに対し授乳婦は毎月1~3%の骨を失うことからも,短期間にたくさんの骨を失うことがわかります。

その後、離乳とともに,急速に骨吸収の抑制と骨形成の促進が起こり,骨密度は6~12カ月かけて妊娠前に回復します。大多数の女性は妊娠・授乳期に見られる生理的な骨密度低下を問題なく乗り越えられますが,若年女性が低栄養などにより妊娠前に十分な最大骨密度を獲得できなかった場合に,妊娠・授乳による骨粗鬆化が閾値を超え,骨が脆くなり骨折を来すと考えられています。

治療法

妊娠後骨粗鬆症治療のガイドラインは存在しませんが,まずは断乳が原則となります。母体からのCa喪失を防ぎ,授乳による内分泌(ホルモン)環境の変化を妊娠前の状態にもどして骨代謝環境を改善する必要があります。脊椎骨折の変形があると将来的な脊椎変形進行のリスクとなるため,重労働かつ長年続く育児作業に十分耐えうる骨密度に改善するまでの期間,新規骨折予防のために母親の育児動作の一部制限も考慮します。高度な骨密度低下,多発椎体骨折を認める場合には,妊娠後骨粗鬆症の診断と同時に,早期の骨密度改善を目指した薬による治療を考えます。薬物選択に関してはビスホスホネート製剤,テリパラチド,デノスマブでの治療経験の報告が散見されます。

妊娠・出産後に腰痛を訴える女性は多く,育児参加の機会を失わず母親の健康のためにも,妊娠後骨粗鬆症を早期に発見し治療する必要があります。治療には,次回の妊娠希望や長期間の治療を見据えた計画が必要となりますので、当院にお気軽にご相談ください。

参考文献

寺内公一 Nippon Rinsho Vol 78, No. 12. 2020-12
日高三貴ら 整形外科と災害外科 68:(4)656~660, 2019.

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