亜鉛欠乏症とは ~味覚障害から骨粗鬆症まで多彩な症状を呈します~

亜鉛は生命維持にとって不可欠な微量元素

亜鉛は300種類以上の酵素の活性中心または補酵素として働き、生命維持にとって不可欠な微量元素であります。亜鉛は多彩な生命活動の基礎となる役割を担っており、その生理作用は多彩で,①身長の伸び(小児), ②皮膚代謝,③生殖機能,④骨格の発育,⑤味覚の維持,⑥精神・行動への影響,⑦免疫機能 ⑧抗酸化作用,⑨創傷治癒,⑩アルコール分解などに関与しています。

亜鉛欠乏は様々な症状を呈します

亜鉛欠乏にともない味覚障害、口内炎、皮膚炎、脱毛、食欲不振、慢性下痢、汎血球減少(貧血・白血球減少など)、免疫機能低下、神経感覚障害、認知機能障害、成長遅延、性腺発育障害、骨粗鬆症などの多彩な症状が出現することが知られています。
亜鉛欠乏をきたす疾患としては成人では慢性肝疾患,炎症性腸疾患,短腸症候群,透析例を含む腎臓病、糖尿病などが挙げられます。
また亜鉛キレート作用をもつ薬剤摂取やフィチンなどの食品添加物摂取などで亜鉛欠乏を引き起こします。

味覚異常者は2003年の全国調査では推定23万人と報告されていますが,近年の高齢化社会と慢性疾患患者の増加を考えると,亜鉛欠乏症患者は非常に増加していることが考えられ、亜鉛欠乏症は決して稀な疾患ではないです。

亜鉛欠乏症の診断

亜鉛欠乏症は,亜鉛欠乏の臨床症状と血清亜鉛値によって診断されます。

日本臨床栄養学会の亜鉛欠乏症の診断指針では臨床症状・所見として皮膚炎、口内炎,脱毛症,褥瘡,食欲低下,発育障害,性腺機能不全,易感染性,味覚障害,貧血,不妊症,血清アルカリフォスファターゼ低値のうち1項目以上を満たし,これらの症状の原因となる他の疾患が除外され,亜鉛補充により症状が改善し,血清亜鉛値では60μg/dL未満の場合、亜鉛欠乏症,60~80μg/dL未満を潜在性亜鉛欠乏と定義されています。

すなわち,亜鉛補充による症状改善が得られてはじめて確定診断に至ります。

血清亜鉛値とよく相関する血清アルカリホスファターゼが代用検査となっており、また,血清亜鉛値には日内変動があることから,測定時刻は早朝の空腹時が望ましいとされています。

栄養指導

「日本人の食事摂取基準(2015 年版)」では,亜鉛摂取推奨量は,成人男性で10mg/日,女性で8mg/日です。妊婦,授乳婦ではそれぞれ 2mg/日,3mg/日が付加量として示されています。
日本人の一般的な献立に含まれる亜鉛量は平均9mgといわれており,普通の食事をしていれば極端に不足しませんが,偏食や低栄養があると不足してしまうため指導が必要です。
食事の重要性を理解してもらうことも大切で日々の食事内容に注意するように促します。

治療薬

日本食品標準成分表2015 年版より

亜鉛製剤としては,従来からポラプレジンク(プロマック®)が使用されていましたが,2017年3月からは酢酸亜鉛水和物(ノベルジン®)が保険適用となりました。(それまではポラプレジンクは胃潰瘍,酢酸亜鉛はWilson病のみが保険適応でした)
酢酸亜鉛のほうが含有される亜鉛量が多いですが,元来Wilson病の治療薬であり,銅の吸収を抑制し銅欠乏をきたす可能性があるため,定期的に血液検査を行う必要があります。亜鉛不足の発生から6カ月以内であれば,亜鉛補充への反応はよく、早期診断早期治療が望ましいです。

まとめ

亜鉛欠乏症は多彩な症状を呈することから複数の医療機関を受診したにもかかわらず,適切な診断および治療を受けることができなかったという経験をもつ患者も少なくないです。
そのため,診療にあたっては,患者の訴えを傾聴し、全身を診て病態を把握することが重要であります。

参考文献

川村龍吉 HIV感染症とAIDSの治療 Vol.10 no.1
亜鉛欠乏症の診療指針 2018 日本臨床栄養学会雑誌
田中真琴 MB ENT No.251 2020
伊藤加代子 船山さおり 井上誠 Jpn J Rehabil Med Vol. 58 No. 12 2021
小関至 山口将功 中島知明 日本消化器病学会雑誌 第ll7巻 第7号

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