リウマチとは~当院リウマチ診療の特徴~
関節リウマチはどんな病気か
関節リウマチの原因
リウマチがなぜ起きるのか、はっきりした原因はよくわかっていません。しかし、この病気のベースには免疫の異常が関わっていることは明らかになっています。また、細菌・ウィルス感染、ストレス、喫煙なども関与するといわれており、親族での家族歴が多い事、一卵性双生児での一致率も15%程度であることから遺伝的な要素も関与していると言われています。
関節リウマチの診断
関節リウマチの診断は様々な基準が用いられてきましたが、現在最も新しいものとして2010年に発表されたアメリカ/ヨーロッパリウマチ学会の「分類基準」を用いることが多くなっています。この分類基準の導入により、より早期の関節リウマチを診断できるようになったと言えます。ここで注意が必要なのが、「診断基準」ではなく「分類基準」であることです。“分類基準”はその疾患について十分な知識を有し、鑑別診断やピットフォールをよく理解したエキスパートが用いることを想定して作られています。したがって、“分類基準”をそのまま診断に用いると、誤った診断を導く可能性があります。例えば、リウマチ因子が陽性であっても全く症状がなければ関節リウマチと診断されませんし、これらの分類基準に適合しなくても、リウマチ因子が陰性でCRPが陰性であっても関節リウマチが強く疑われ、治療が必要な患者様がいますので、特にそのような事例は専門医にご相談されることをお勧めします。
【アメリカ&欧州リウマチ学会の関節リウマチ診断の基準(2010)】
分類基準(カテゴリーA~Dの合計で6/10以上なら関節リウマチ確定と診断)
A 関節病変
中関節・大関節に1つ以上腫脹や疼痛関節がある:0点
中関節・大関節に2~10個の腫脹か疼痛関節がある:1点
小関節に1~3個の腫脹か疼痛関節がある:2点
小関節に4~10個の腫脹か疼痛関節がある:3点
最低でも1つ以上の小関節領域に10個を越える腫脹または疼痛関節がある:4点
B 血清学的因子
リウマチ因子(RF)、抗CCP抗体(ACPA)ともに陰性:0点
リウマチ因子(RF)、抗CCP抗体(ACPA)のうち最低でも1つが陽性で低力価:1点
リウマチ因子(RF)、抗CCP抗体(ACPA)のうち最低でも1つが陽性で高力価:2点
C 滑膜炎持続期間
6週間未満:0点
6週間以上:1点
D 炎症マーカー
C反応性蛋白(CRP)と赤血球沈降速度(ESR)が両方とも正常である:0点
C反応性蛋白(CRP)と赤血球沈降速度(ESR)のどちらかが異常である:1点
関節リウマチと検査
関節リウマチと診断されたら治療を開始します。この項では診断・治療効果・副作用の発現を評価するためにリウマチ患者様が定期的に行っている検査について説明したいと思います。
検査の種類
○血液検査・尿検査
薬物治療による外来フォローの場合、治療の効果や副作用をみるために1か月程度の定期的な外来受診と血液検査を行います。リウマチの活動性を評価するとともに、薬による副作用が生じていないかを評価します。
○レントゲン検査
○関節超音波検査
○骨密度検査(DXA法)
リウマチに罹患した場合、またはステロイドを長期間服用すると骨密度・骨質の低下を生じ、骨強度の低下につながります。骨粗鬆症の診断と薬剤投与による治療効果の評価のためにはDXA法が最も鋭敏で全身状態を反映させることのできる検査です。特に高齢、ステロイド治療を受けておられるリウマチ患者様は定期的な骨密度検査による評価が必要です。
関節リウマチの治療
関節リウマチの治療の最大の目的は骨・軟骨破壊を極力抑制し、関節機能、生活動作を維持し、さらには生命予後を改善すること、つまり健康で長生きしていただくことです。関節リウマチの治療は主に薬物療法・手術療法・運動療法があります。ここ数年飛躍的な進歩を遂げており、特に薬物療法については目覚ましいものがあります。これらの治療方法について説明します。
○薬物療法
副腎皮質ホルモン(ステロイド)
非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID)
疼痛・炎症・発熱に効果のある比較的即効性の高い薬剤です。基本的には関節リウマチの活動性には影響を与えません。長期投与により胃潰瘍・消化管出血の原因となることがあります。しかもその多くが症状を自覚することなく進行している事が多いので注意が必要です。最近はCOX-2選択的阻害薬(セレコックス、モービック、ハイペンなど)を使用することにより消化性潰瘍の発生頻度が抑えられる可能性が報告されていますが、いずれにしても長期投与には慎重であるべきです。また、腎機能を悪化させることもあり、特に腎不全の患者様は注意が必要です。これらの既往歴がある方にはアセトアミノフェン(カロナールなど)が比較的安全です。
抗リウマチ薬(DMARD)
抗リウマチ薬は疾患修飾性抗リウマチ薬(disease modifying anti-rheumatic drugs:DMARDs)ともよばれ,関節リウマチの免疫異常を改善することによって,関節リウマチの活動性をコントロールすることのできる薬剤です。なかでもMTX(メソトレキサート:商品名リウマトレックス、メトレート)は高い有効性、継続率と優れた骨破壊進行抑制効果、QOL(生活の質)改善効果に加え、生命予後の改善や心筋梗塞の発症率減少効果を兼ね備えた抗リウマチ薬です。その長期にわたる有効性と安全性、他の抗リウマチ薬や生物学的製剤との併用における有用性から関節リウマチ治療のアンカードラッグ(基本)に位置づけられ、リウマチ医が最も頻用している抗リウマチ薬です。用量依存的に効果を発現しますが、副作用の出現する頻度も高くなります。肝機能異常、口内炎、嘔気などの消化器症状、骨髄抑制は用量依存性の副作用であり、葉酸(フォリアミン)の投与により改善するケースが多く認められます。リンパ増殖性疾患との関連も指摘されており、MTX中止によりリンパ腫が改善する例もあります。
抗リウマチ薬は一般に、効果のある人(レスポンダー)とそうでない人(ノンレスポンダー)があること、効果発現が遅い事(多くは最大効果発現までに2~3か月を要する)、だんだん効かなくなってくることがある(エスケープ現象)などが知られています。効果は用量依存的であることが多いですが、副作用発現率も通常用量に応じて出現します。最も多い副作用は消化器症状と皮疹で、軽度ならば対症療法により治療を継続できる場合も多いですが、なかには血液障害,腎障害,間質性肺炎などの生命にかかわる重篤な副作用も報告されています。
腎機能障害や肝機能障害のみられる患者様,および高齢者では薬剤の蓄積が起こりやすいため、慎重に投与します。
○生物学的製剤・分子標的治療薬
また、不応例・効果不十分な症例があること、治療費が高額であるために全ての患者様が安全に治療されるものではないことに注意しなくてはなりません。近年は使用できる薬剤が多くなっており、徐々に薬剤の種類によって効果のある患者様の傾向・副作用頻度などの違いが明らかになってきています。自分に最も適した薬を選択し、安全に投与を受けていただくために最新の知識に精通し、生物学的製剤の使用に慣れた専門医による治療が望まれます。
○関節内注射
局所的な関節の痛みに対してはステロイドやヒアルロン酸の関節内注射が有効です。特にステロイド関節注射は炎症を抑制し、薬物治療を併用することで、薬物治療効果の相乗効果も期待でき、早期の関節炎の抑制が可能となることがあります。ただし注射のみでは治療効果が限定的である事、骨軟骨破壊抑制効果・軟骨再生能力を持たない事、関節内に異物を注入するのでまれに感染を起こしてしまう事があるので注意が必要です。特に効果が十分でない場合、頻回の関節内注射は控えるべきと考えます。
サプリメントについて
現在リウマチの治療に推奨されるべきエビデンスのあるサプリメントは存在しません。MTX投与中の葉酸を含むサプリメント摂取は効果減弱につながるため避けるべきです。サプリメント全般に抗リウマチ薬との相互作用についてはまだまだ分かっていないことが多いく、継続を希望される場合は主治医と相談のうえ慎重な投与が望まれます。
○手術療法
手術療法は、適切な薬物療法やリハビリテーションを行っても痛みが軽快しない場合や、関節障害のために歩行が困難になったり、物が持ちにくくなったり日常生活に支障が出る場合や、放置しておくと感染などの有害事象が生じてしまう可能性があったり、審美的な理由から必要になることがあります。リウマチ患者様に行われることが多い手術について説明します。
滑膜切除術
炎症を起こして腫れた滑膜は、痛みの原因になります。滑膜切除術は、この痛みの原因となる滑膜を取り除くことで症状を改善する手術です。術後は腫れや痛みが改善するので、薬の量を減らすこともできる可能性がありますが、長期的には再燃する可能性もあります。膝・足関節・肘関節・手指関節に対して行われることが多いです。
人工関節置換術
関節破壊が進行した関節を人工関節に置換して関節機能を再建する手術です。股関節・膝関節・足関節・肩関節・肘関節の大関節には金属製の、手指関節・足趾関節にはシリコン製の人工関節手術を行うのが一般的です。
関節固定術
骨切り術や人工関節置換術での対応が困難な場合、固定してしまった方が日常生活を送る上で長期的には有利な場合関節固定術を行うことがあります。足関節・手指足趾関節・手関節などに対して行われる場合が多いです。
機能再建手術:足趾の再建
関節リウマチによる足趾関節炎が長期にわたると、外反母趾や内反小趾や鷲爪変形や足趾の重なり、偏平足などが生じることがあります。それに伴って胼胝・鶏眼形成が生じ、痛みや感染の原因になる事があります。それに伴ってこのようなこのような足趾の関節に対して関節形成術を行えば足趾の変形を治すことが可能です。また変形の程度によって術式は異なりますが、以前は全例関越切除術を行っておりましたが、近年ではリウマチのコントロールが可能な患者様が多くなってきており、寛解状態に導く事が出来る例が増えているので、できるだけ関節を温存した中足骨短縮骨切りによる足趾の再建術を積極的に勧めています。
○機能再建手術:手の再建
関節リウマチによる手指手関節炎が長期にわたると、手指の尺側変位やスワンネック変形などを生じ、さらに伸筋腱断裂を生じた場合食事・筆記などの動作が困難になることがあります。そのような場合、伸筋腱再建術、手関節形成術、関節固定術、人工関節などを組み合わせて行うことによって手指・手関節の機能再建を行うことがあります。手術の適応があると判断した場合、近隣の経験豊富な専門医に紹介させていただいております。