院長ノートNOTE
院長ノート

頚部痛

頚部痛

疼痛の場所により,項部痛,肩甲上部痛,肩甲骨上角部痛,肩甲間部痛,肩甲骨部痛と称され,これらが頚部痛となります(図)。頚部痛の原因となる代表的疾患の特徴と治療方法について説明いたします。

 

頚椎椎間板ヘルニア

頚椎椎間板ヘルニアによる頚部痛,上肢痛の代表的な疾患となります。頚部痛と神経根症状(上肢の痛みやしびれ)を伴っていても、70~90%は保存的治療(手術を要しない治療)で改善します。

頚椎症

一般的に頚椎は30歳ごろより徐々に加齢性変化が生じます。女性よりも男性に多く見られます。変性の進行によって頚椎症を発症し,慢性的な頚部痛や上肢へのしびれ,疼痛が生じます。頚椎症に対してもヘルニアと同様に頚部痛,神経根症状のみの場合には保存的治療が第一選択となります。脊髄症へと進展した場合には、手術治療を要することがあります。

靱帯骨化症

脊柱靱帯骨化症(後縦靱帯骨化症,黄色靱帯骨化症)は原因が不明であり,一般的に中年以降の男性に多く見られます。画像検査で偶発的に発見されることもあります。中年期に発症したものでは骨化は徐々に進展するために,症状が軽微であったとしても外傷などを契機に悪化する可能性があります。特に自転車での転倒などによって脊髄損傷を来す場合があります。

腫瘍性疾患

原発性脊椎腫瘍,転移性脊椎腫瘍などの脊椎腫瘍はまれであり,レントゲン検査では異常所見がはっきりしないことがあり、非特異的頚部痛と誤って診断されることがあります。悪性腫瘍の既往があり画像所見で溶骨性変化が見られた場合は、精査が必要です。

炎症性疾患

関節リウマチでは,上位頚椎の障害の頻度が高く、罹病期間が長い方は注意が必要です。環軸椎関節亜脱臼やさらに進行すると,軸椎下亜脱臼を生じます。
その他、化膿性脊椎炎,結核性脊椎炎がありますが、これらは診断が遅れると重篤な神経障害が生じ,場合によっては生命にも影響を及ぼすことがあるため注意が必要です。

外傷性疾患

重篤な頚椎損傷は転落や交通外傷などの高エネルギーにより生じ,重度の頚部痛や神経症状を呈し,救急診療を要することが多いです。
歯突起骨折は転倒などにより頚椎が伸展強制されて生じることが多く、骨折のタイプによっては骨癒合不良のため手術が必要となります。しかし、高齢者が転倒などの軽微な外傷により生じることが多く、症状も軽症であることがあり,正確に診断できず見逃されてしまうことがあり、転倒後の長引く頚部痛には注意が必要です。
びまん性特発性骨増殖症や強直性脊椎炎では,強固に固まったしなりのない脊椎であるために軽微な外傷により脊椎損傷を来すことがあります。また頚椎症性脊髄症を背景に、高齢者が自転車で転倒され、中心性頚髄損傷を発症するケースも散見されます。

参考文献

岡田英次朗ら Nippon Rinsho Vol.77、No.12,2019-12