院長ノートNOTE
院長ノート

リウマチとは~当院リウマチ診療の特徴~

リウマチとは~当院リウマチ診療の特徴~

関節リウマチはどんな病気か

関節リウマチは関節を構成している滑膜組織に炎症が起こり、痛み・腫脹が生じます。炎症性サイトカインが誘導されると骨・軟骨の破壊が起こり、徐々に関節痛・可動域制限や関節の変形が生じ、日常生活が困難となってきます。関節リウマチの頻度は世界的に見て人口の0.5%~1.0%(平均0.8%)といわれ、性別では男性に比べて明らかに女性に多く認められています(男性の3~4倍)。発病年齢は、多くは40~60歳代ですが、10代から80代まであらゆる年代にわたります。最近は高齢発症の頻度が増えてきています。発症早期のほうが薬剤の効果が得られやすく、また治療により寛解へ導く可能性が高くなるということが明らかになっており、できるだけ早い時期から適切な治療を開始することが重要です。

関節リウマチの原因

リウマチがなぜ起きるのか、はっきりした原因はよくわかっていません。しかし、この病気のベースには免疫の異常が関わっていることは明らかになっています。また、細菌・ウィルス感染、ストレス、喫煙なども関与するといわれており、親族での家族歴が多い事、一卵性双生児での一致率も15%程度であることから遺伝的な要素も関与していると言われています。

関節リウマチの診断

関節リウマチの診断は様々な基準が用いられてきましたが、現在最も新しいものとして2010年に発表されたアメリカ/ヨーロッパリウマチ学会の「分類基準」を用いることが多くなっています。この分類基準の導入により、より早期の関節リウマチを診断できるようになったと言えます。ここで注意が必要なのが、「診断基準」ではなく「分類基準」であることです。“分類基準”はその疾患について十分な知識を有し、鑑別診断やピットフォールをよく理解したエキスパートが用いることを想定して作られています。したがって、“分類基準”をそのまま診断に用いると、誤った診断を導く可能性があります。例えば、リウマチ因子が陽性であっても全く症状がなければ関節リウマチと診断されませんし、これらの分類基準に適合しなくても、リウマチ因子が陰性でCRPが陰性であっても関節リウマチが強く疑われ、治療が必要な患者様がいますので、特にそのような事例は専門医にご相談されることをお勧めします。

【アメリカ&欧州リウマチ学会の関節リウマチ診断の基準(2010)】

分類基準(カテゴリーA~Dの合計で6/10以上なら関節リウマチ確定と診断)

A 関節病変

中関節・大関節に1つ以上腫脹や疼痛関節がある:0点

中関節・大関節に2~10個の腫脹か疼痛関節がある:1点

小関節に1~3個の腫脹か疼痛関節がある:2点

小関節に4~10個の腫脹か疼痛関節がある:3点

最低でも1つ以上の小関節領域に10個を越える腫脹または疼痛関節がある:4点

B 血清学的因子

リウマチ因子(RF)、抗CCP抗体(ACPA)ともに陰性:0点

リウマチ因子(RF)、抗CCP抗体(ACPA)のうち最低でも1つが陽性で低力価:1点

リウマチ因子(RF)、抗CCP抗体(ACPA)のうち最低でも1つが陽性で高力価:2点

C 滑膜炎持続期間

6週間未満:0点

6週間以上:1点

D 炎症マーカー

C反応性蛋白(CRP)と赤血球沈降速度(ESR)が両方とも正常である:0点

C反応性蛋白(CRP)と赤血球沈降速度(ESR)のどちらかが異常である:1点

関節リウマチと検査

関節リウマチと診断されたら治療を開始します。この項では診断・治療効果・副作用の発現を評価するためにリウマチ患者様が定期的に行っている検査について説明したいと思います。

検査の種類

○血液検査・尿検査

薬物治療による外来フォローの場合、治療の効果や副作用をみるために1か月程度の定期的な外来受診と血液検査を行います。リウマチの活動性を評価するとともに、薬による副作用が生じていないかを評価します。

○レントゲン検査

関節リウマチは、治療が十分でないと、関節を中心に炎症が持続し不可逆的な関節破壊を来たし日常生活に支障を来すことになります。リウマチ診療の目的の一つは、関節破壊の進行を抑制し、患者の皆様の日常生活の質を将来にわたって維持することです。従いまして関節リウマチの診断および経過の観察に、レントゲン検査は非常に重要です。まず、関節リウマチを疑った際には、症状のある部位を中心にレントゲンを撮影して評価する必要がありますが、時に症状のない部位(例えば足の指)にも早期に 骨の変化(骨びらんは骨破壊・関越裂隙の狭小化は軟骨の変性や破壊を意味します)を認めることを知っておく必要があります。初診時には特に手指と足趾のレントゲンを撮ることがガイドラインでも推奨されています。またCRP等の炎症反応が正常値であっても、見かけ上の関節の腫れがなくても、画像上の関節変性が進行することがありますので、定期的な観察が必要です。

○関節超音波検査

比較的安価に放射線の被曝なく活動性のある関節炎を正確に簡便に評価することができます。リウマチ患者様において、一見腫脹がないように見える関節であっても超音波で滑膜炎が認められる場合、その関節は今後関節破壊が進行してゆく可能性があります。従って寛解状態にあるようにみえても、関節破壊予防のためにはさらに強力な治療が必要である可能性があります。一方、関節腫脹があるように見えても超音波で滑膜炎が認められない場合は関節リウマチの活動性が低下している可能性があります。当院では診断・治療効果判定のために関節超音波検査を必要に応じて随時行っています。

○骨密度検査(DXA法)

リウマチに罹患した場合、またはステロイドを長期間服用すると骨密度・骨質の低下を生じ、骨強度の低下につながります。骨粗鬆症の診断と薬剤投与による治療効果の評価のためにはDXA法が最も鋭敏で全身状態を反映させることのできる検査です。特に高齢、ステロイド治療を受けておられるリウマチ患者様は定期的な骨密度検査による評価が必要です。

関節リウマチの治療

関節リウマチの治療の最大の目的は骨・軟骨破壊を極力抑制し、関節機能、生活動作を維持し、さらには生命予後を改善すること、つまり健康で長生きしていただくことです。関節リウマチの治療は主に薬物療法・手術療法・運動療法があります。ここ数年飛躍的な進歩を遂げており、特に薬物療法については目覚ましいものがあります。これらの治療方法について説明します。

○薬物療法

副腎皮質ホルモン(ステロイド)

ステロイドは少量で強力な抗炎症作用を有します。関節リウマチに罹患して炎症が強い場合にも即効性があり、劇的に改善する場合がありますが、単独投与は後述するDMARDに比べて骨破壊抑制効果に乏しく長期使用により消化性潰瘍・糖代謝異常・免疫力の低下による感染・骨粗鬆症・白内障など様々な副作用を生じることがあります。急激な中止は副腎不全を生じることがあり、ステロイドを中止する場合には漸減する必要があります。

非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID)

疼痛・炎症・発熱に効果のある比較的即効性の高い薬剤です。基本的には関節リウマチの活動性には影響を与えません。長期投与により胃潰瘍・消化管出血の原因となることがあります。しかもその多くが症状を自覚することなく進行している事が多いので注意が必要です。最近はCOX-2選択的阻害薬(セレコックス、モービック、ハイペンなど)を使用することにより消化性潰瘍の発生頻度が抑えられる可能性が報告されていますが、いずれにしても長期投与には慎重であるべきです。また、腎機能を悪化させることもあり、特に腎不全の患者様は注意が必要です。これらの既往歴がある方にはアセトアミノフェン(カロナールなど)が比較的安全です。

抗リウマチ薬(DMARD)

抗リウマチ薬は疾患修飾性抗リウマチ薬(disease modifying anti-rheumatic drugs:DMARDs)ともよばれ,関節リウマチの免疫異常を改善することによって,関節リウマチの活動性をコントロールすることのできる薬剤です。なかでもMTX(メソトレキサート:商品名リウマトレックス、メトレート)は高い有効性、継続率と優れた骨破壊進行抑制効果、QOL(生活の質)改善効果に加え、生命予後の改善や心筋梗塞の発症率減少効果を兼ね備えた抗リウマチ薬です。その長期にわたる有効性と安全性、他の抗リウマチ薬や生物学的製剤との併用における有用性から関節リウマチ治療のアンカードラッグ(基本)に位置づけられ、リウマチ医が最も頻用している抗リウマチ薬です。用量依存的に効果を発現しますが、副作用の出現する頻度も高くなります。肝機能異常、口内炎、嘔気などの消化器症状、骨髄抑制は用量依存性の副作用であり、葉酸(フォリアミン)の投与により改善するケースが多く認められます。リンパ増殖性疾患との関連も指摘されており、MTX中止によりリンパ腫が改善する例もあります。

抗リウマチ薬は一般に、効果のある人(レスポンダー)とそうでない人(ノンレスポンダー)があること、効果発現が遅い事(多くは最大効果発現までに2~3か月を要する)、だんだん効かなくなってくることがある(エスケープ現象)などが知られています。効果は用量依存的であることが多いですが、副作用発現率も通常用量に応じて出現します。最も多い副作用は消化器症状と皮疹で、軽度ならば対症療法により治療を継続できる場合も多いですが、なかには血液障害,腎障害,間質性肺炎などの生命にかかわる重篤な副作用も報告されています。

腎機能障害や肝機能障害のみられる患者様,および高齢者では薬剤の蓄積が起こりやすいため、慎重に投与します。

○生物学的製剤・分子標的治療薬

生物学的製剤・分子標的治療薬とは最新の遺伝子工学技術を駆使して開発された新しい薬で、関節リウマチにおける炎症や痛み、腫脹、骨・軟骨破壊を引き起こす原因となる物質を抑制することにより、関節リウマチを寛解状態に導き、骨軟骨破壊の進行を抑えるまたは遅らせることができる可能性が最も高い薬剤です。日本はもちろん、欧州や米国のリウマチ学会でも、MTX治療で効果不十分であるならば、次の一手は生物学的製剤併用が推奨されています。最近の各種報告では関節リウマチ患者様全体の30~40%程度に使用されているとされますので、MTXで効果不十分の方に限ってみるとかなりの頻度で生物学的製剤が使用されていることになります。しかし、免疫抑制作用が強いため、投与中肺炎や結核などの感染症への十分な配慮が必要です。最近ではB型肝炎再活性化による劇症肝炎も問題になっています。従って血液検査やレントゲン、CT検査で投与前に十分な感染症の検査をしておくこと、適切な間隔での定期的な外来受診が非常に重要です。

また、不応例・効果不十分な症例があること、治療費が高額であるために全ての患者様が安全に治療されるものではないことに注意しなくてはなりません。近年は使用できる薬剤が多くなっており、徐々に薬剤の種類によって効果のある患者様の傾向・副作用頻度などの違いが明らかになってきています。自分に最も適した薬を選択し、安全に投与を受けていただくために最新の知識に精通し、生物学的製剤の使用に慣れた専門医による治療が望まれます。

○関節内注射

局所的な関節の痛みに対してはステロイドやヒアルロン酸の関節内注射が有効です。特にステロイド関節注射は炎症を抑制し、薬物治療を併用することで、薬物治療効果の相乗効果も期待でき、早期の関節炎の抑制が可能となることがあります。ただし注射のみでは治療効果が限定的である事、骨軟骨破壊抑制効果・軟骨再生能力を持たない事、関節内に異物を注入するのでまれに感染を起こしてしまう事があるので注意が必要です。特に効果が十分でない場合、頻回の関節内注射は控えるべきと考えます。

サプリメントについて

現在リウマチの治療に推奨されるべきエビデンスのあるサプリメントは存在しません。MTX投与中の葉酸を含むサプリメント摂取は効果減弱につながるため避けるべきです。サプリメント全般に抗リウマチ薬との相互作用についてはまだまだ分かっていないことが多いく、継続を希望される場合は主治医と相談のうえ慎重な投与が望まれます。

○手術療法

手術療法は、適切な薬物療法やリハビリテーションを行っても痛みが軽快しない場合や、関節障害のために歩行が困難になったり、物が持ちにくくなったり日常生活に支障が出る場合や、放置しておくと感染などの有害事象が生じてしまう可能性があったり、審美的な理由から必要になることがあります。リウマチ患者様に行われることが多い手術について説明します。

滑膜切除術

炎症を起こして腫れた滑膜は、痛みの原因になります。滑膜切除術は、この痛みの原因となる滑膜を取り除くことで症状を改善する手術です。術後は腫れや痛みが改善するので、薬の量を減らすこともできる可能性がありますが、長期的には再燃する可能性もあります。膝・足関節・肘関節・手指関節に対して行われることが多いです。

人工関節置換術

関節破壊が進行した関節を人工関節に置換して関節機能を再建する手術です。股関節・膝関節・足関節・肩関節・肘関節の大関節には金属製の、手指関節・足趾関節にはシリコン製の人工関節手術を行うのが一般的です。

関節固定術

骨切り術や人工関節置換術での対応が困難な場合、固定してしまった方が日常生活を送る上で長期的には有利な場合関節固定術を行うことがあります。足関節・手指足趾関節・手関節などに対して行われる場合が多いです。

機能再建手術:足趾の再建

術後に胼胝が消失

関節リウマチによる足趾関節炎が長期にわたると、外反母趾や内反小趾や鷲爪変形や足趾の重なり、偏平足などが生じることがあります。それに伴って胼胝・鶏眼形成が生じ、痛みや感染の原因になる事があります。それに伴ってこのようなこのような足趾の関節に対して関節形成術を行えば足趾の変形を治すことが可能です。また変形の程度によって術式は異なりますが、以前は全例関越切除術を行っておりましたが、近年ではリウマチのコントロールが可能な患者様が多くなってきており、寛解状態に導く事が出来る例が増えているので、できるだけ関節を温存した中足骨短縮骨切りによる足趾の再建術を積極的に勧めています。

○機能再建手術:手の再建

関節リウマチによる手指手関節炎が長期にわたると、手指の尺側変位やスワンネック変形などを生じ、さらに伸筋腱断裂を生じた場合食事・筆記などの動作が困難になることがあります。そのような場合、伸筋腱再建術、手関節形成術、関節固定術、人工関節などを組み合わせて行うことによって手指・手関節の機能再建を行うことがあります。手術の適応があると判断した場合、近隣の経験豊富な専門医に紹介させていただいております。

リウマチに対する手術の豊富な経験があります。

関節リウマチによって障害されたために手術が必要になった場合、適切な手術を提案いたします。下肢手術に関しては手術経験が豊富な院長が提携病院にて手術を行い、術後のリハビリテーションからアフターフォローまでトータルサポートが可能です。頸椎不安定性に対する手術や手指の腱断裂など一部の症例については近隣の施設に連携致します。